鹿島美術研究 年報第28号別冊(2011)
468/620

⑹ Zin, M. “The Identification of Kizil paintings III”, Indo-Asiatische Zeitschrift 12, Berlin: Mitteilungen 注⑴ 宮治昭「インドの仏伝美術の三類型」『佛教藝術』217号、毎日新聞社、1994年、p. 18.⑵ Faccenna, D, Sculptures from the Sacred Area of Butkara I, vol.2−3, Roma: Istituto Poligrafico dello Stato, 1964, Pl. CDX. ただ本作例では、ガンダーラの仏伝図において出城後からブッダに付き従うヴァジュラパーニも表現され、太子時代の場面を表したものか判然としないため、以降では、競試武芸として扱わない。⑶ 敦煌莫高窟第290窟(中国石窟・敦煌莫高窟編集委員会編『中国石窟・敦煌莫高窟』、平凡社、東京、1980年)、キジル石窟第110窟(von Le Coq, A., Die Buddhistische Spätantike in Mittelasien, III. Berlin:, 1924, Taf.6,7,8,9, 10)の表現は、壁面一面を用いながらも一場面ごとを明確に区切った叙事的な表現がとられている。⑷ Foucher, A. L’art gréco-bouddique du Gandha¯ra, vol. I., Paris: Imprimerie Nationale, 1905, pp. 330−336.⑸ Taddei, M. “Il Mito di Filottete ed un episodio della vita del Buddha”, Archeologia Classica 15, Roma: L’Erma, 1963, do., “On a Hellenistic Model used in some Gandharan reliefs in Swa¯t”, East and West 15, Roma: IsMEO, 1964−65.der Gesellschaft für Indo-Asiatische Kunst, 2008⑺ Quagliotti, A. M, “Considerations on some Gandharan Scenes depicting the Wrestling Match in ― 457 ―資料略号Lv., 外薗幸一『ラリタヴィスタラの研究』、大東出版社、東京、1994年、本文校訂T 大正新脩大蔵経像を示さず、「レスリング」を表す際には組み合う図像で象徴することに比重が置かれている。これに呼応するように、対応する仏伝経典でも早期訳出の漢訳のみが水を注ぐ出来事を記述し、その他多くの文献では言及されていない。文献に残る伝承の傾向は、ガンダーラの「レスリング」図の様式推移を裏付けるものである。第二に、これまで考察の対象にならなかった漢訳仏伝の検討により、水が注がれる場面がレスリングに関わる説話とともに理解され、装身具をつけた敗者像は、太子の従兄弟デーヴァダッタに代表される仏伝の登場人物と比定することが出来る。最後に、ガンダーラの仏伝図にみる競試武芸は作例により時系列が異なっており、小ストゥーパの設置された各地域・時代により様々に順序と伝承が想定されていたとみられる。こうした順序の混在の傾向は、図像の特徴が記述される文献上にも表れており、それぞれ様々な順序で競試武芸が記述され、上でみたように「レスリング」において図像と文献との間で呼応した伝承の推移が読み取れる点は、当地で競試武芸の伝承が混在し発達した痕跡ともみなすことが出来るであろう。

元のページ  ../index.html#468

このブックを見る