鹿島美術研究 年報第28号別冊(2011)
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2.絵金作芝居絵屏風の特徴前述のように現存する土佐芝居絵は原則として無落款であることに加え、制作年代についても判明していない。そのためどの作例までを絵金作品とするかは見解が分かれるところであるが、絵金蔵に収蔵する赤岡町伝来の23点のうち3点(注5)を除く20点は絵金の代表作として定評がある。― 463 ―る。筆者は香南市赤岡町・絵金蔵においてこの申請以前より当報告書をもとに、これを補完するため作品細部の撮影、外題調査、画像収集、各地でスタイルが異なる祭礼や習俗などについての聞き取りを含めた調査を行ってきた。今度もこうした調査を継続し、さらなる資料収集につとめたい。先述の悉皆調査以後、筆者が調査を行った作品は264点で、そのうち新たに確認された作品は20点、所在不明作品が3点、火災等により滅失したものが1点確認された。なお本申請で行った調査は29点である(〔表1〕絵金関連調査作品リスト参照)。本調査によって14点の新たな作品が確認され、作例の少ない横幟や節句幟など、絵金の画業や作風の幅広さを再認識することとなった。また落款・印章が施され奉納年の記載も多い絵馬6点を新たに確認できたことも大きな収穫であった。これまで作品分布の東端は奈半利町から海岸沿いに西端は須崎市までとされていたが、その後の調査により県最東端に近い室戸市や最西端の大月町でも確認され、横に長い本県の東西域全体に及んでいることがわかった。なお山間部や作例の少ない県西部においても引き続き調査を行っていきたい。本稿ではこれらを基準作として絵金による芝居絵屏風の特徴を抽出するとともに、その過程で得られた見解を述べる。・構図絵金は複雑な芝居のストーリーを異時同図法や遠近法など(注6)を用いた独自のスタイルで構成するが、さらに作品の中心となる人物群を三角形にまとめる特徴があり、『鎌倉三代記 三浦別れ』〔図1〕、『伽羅先代萩 御殿』〔図2〕、『蘆屋道満大内鑑 ■の葉子別れ』、『伊達競阿国劇場 累』など、代表作の多くに用いられている。現代でも絵画や写真の世界で用いられるこの構図によって、人物の動態を硬直させず安定感ある画面を作りだしている。また群像を描く際「渦巻きのような構図」(注7)と称されるように、配置された人物の視点を絵の中心に集中させることで緊迫感を生み、観る者を絵の中心に惹き込むような効果をもたらしている。

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