鹿島美術研究 年報第28号別冊(2011)
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注略語:BnF : Bibliothèque nationale de France ; Bn : Bibliothèque nationale    Bm : Bibiothèque municipale⑴ KÖNIG (E.) Les Heures de Marguerite d’Orléans, Paris : Cerf-Bibliothèque nationale, 1991. ⑵ TANABE (M.) Iconographie de la décoration végétale dans les livres d’heures français du XVe siècle, mémoire de DEA, Université Paris X-Nanterre, octobre 2000. 日仏美術学会第101回例会にて発表した当該研究成果の一部については、以下に要旨掲載。田辺めぐみ「フランス15世紀時祷書における植物装飾の役割と意義─マルグリット・ドルレアンの時祷書を用いて─」『日仏美術学会会報』日仏美術学会,2005,pp. 66−67.⑷ KÖNIG (E.), op. cit., 1991, pp. 112−116.⑸ 当該写本に認められる樹木のうち、温暖な気候を要する、アカシア、杏、アーモンド、オリーヴ、柘榴、スイートオレンジ、そして棕櫚は、地中海世界から離れた地方では当時存在しなかった⑶ TANABE (M.) La signification et la fonction symbolique de l’ornement végétal dans les livres d’heures bretons au XVe siècle, thèse de doctorat nouveau régime, Université Paris X-Nanterre, 2008. 美術史学会西支部例会にて報告した当該研究成果の一部については、以下に要旨掲載。「『マルグリット・ドルレアンの時祷書』における余白装飾の両義性」『美術史』美術史学会,2011,vol. 170,No. 2,p. 342.― 485 ―結論『M時祷書』に認められる地中海世界に特有の樹木、そして果樹採集の図像の創意源は、依然未解決であることは明らかである。調査結果として想定していた、ヴァレンティンを介したイタリア写本、及びその文化一般の影響を『M時祷書』に問うことが不可能であったことは認めざるを得ない。また、マルグリットの蔵書に関する資料の著しい不足から、問題解明に有効な手段を見出せなかったことも否めない。更に、オルレアン家の写本の贈与、及び写本貸与の多様な経路と、その受容結果の充分な把握に未だ至っていないことも、当該調査から決定的な結論を導き切れなかった理由として挙げられる。このような結果は、写本彩飾の独創性が、写本画家の能力、或いはその図像体系の複雑な生成過程に由来するのか、写本所有主の意向にあるのかを明瞭に把握することにあった、本調査の目的達成に至らしめることはなかった。しかしながら、オルレアン家の蔵書調査を通して、『M時祷書』彩飾の着想源が、マルグリットの近親者の蔵書に求め得ることが判明したことにより、植物装飾を構成する要素の特異性のみならず、オルレアン家の重要性を喚起する装飾の生成要因等、当該写本制作過程に関する多くの謎を解明する糸口を得たことは看過できない。このような諸問題の深化を図る上で必要となる、オルレアン家の蔵書の詳細にわたる調査は、今後の課題としたい。

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