鹿島美術研究 年報第28号別冊(2011)
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1.大分県宇佐市黒区(天福寺奥の院伝来) 菩薩立像〔図1〜5〕 木造 1軀 像高(現状)92.5cm本像は、仙台市内に伝来する菩薩立像(十八夜観世音堂蔵、8〜9世紀)(注1)― 490 ―㊻ 仙台地域を中心とする宗教彫像の基礎的調査研究研 究 者:仙台市博物館 学芸員  酒 井 昌一郎はじめに仙台地域では仏教彫刻をはじめとする宗教彫像の基礎調査が途上段階にあり、かねてより進展が期されていた。本研究では、宗教彫像から地域の歴史に光をあてることを大きな目的として、実作例をはじめ文献や絵画資料といった関連資料の調査を行った。その際、近世に仙台地域を含む仙台藩領を治めた伊達家に関わる肖像彫刻についても、多くが霊廟に安置され寺院の管理下に置かれたことから調査対象に加えた。今回、調査を実施し一定の成果を得たが、現段階で予備調査にとどまっている例もあり、今後も調査を継続していく必要がある。とはいえ、それらについては後日を期すこととし、報告可能である数件の概要を以下に記すこととする。の関連作例として調査を行った。品質および構造について、カヤとみられる針葉樹1材から両臂を含む全身を彫出し、木心を右肩背面寄りに籠めている。内刳りはない。主な保存状態は以下の通り。現状で両臂先および膝より下の脚部を欠失する。面部は朽損が甚だしく、眉目・口唇などの造作を確認できない。像容は以下の通り。髻を結い上げ、外形は球状に近いドーム形をなす。天冠台(細部意匠は不明)を表し、正面および左右の三面に冠飾(正面は山型、左右で三角形の外形をなす)を表す。頭髪は天冠台より下、耳より前の地髪部疎ら彫りとし、他を平彫りとする。鬢髪を表す(左側は別材貼付とみられるが、欠失)。耳朶環状(欠失)。三道を表す。両肩に懸かる天衣は、肩前でいったん畳まれた後、上膊から左右外側へ垂下したとみられる(天衣垂下部欠失)。条帛・裙・腰布を着ける。条帛結び目および臂釧は確認できない。両臂を屈して胸前へ向け、腰をわずかに左へ捻って立つ。なお、現在大分県立歴史博物館に寄託され、構造技法・像容とも概ね本像に通じる天福寺奥の院伝来の菩薩立像(像高154.0cm)では、台座蓮肉部とその下に造り出す心束まで本体材から彫出していることから、本像も同様の方法で台座が彫出されていた可能性が考えられる。

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