鹿島美術研究 年報第28号別冊(2011)
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⑶ 本課題に関連する主要な先行研究として次が挙げられる。Le Retour à l’ordre dans les arts plastiques et l’architecture, 1919−1925., Centre Interdisciplinaire d’Etudes et de Recherche sur l’Expression Contemporaine, 1975. やMaurizio Fagiolo dell’Arco, Classicismo pittorico: Metafisica, 注⑴ Jean Clair, Les Réalismes 1919−1939, ex.cat., Centre Georges Pompidou, 1980.⑵ 村田宏『トランスアトランティック・モダン:大西洋を横断する美術』、みすず書房、2002年、― 562 ―かから、もはや「あらゆる美学を乗り越えた」と自負する画家が、「伝統」と「近代」あるいは「革命」の間で、見えるものと見えないものの間で、「近代の神秘主義(misticismo moderno)」へと向かって、独自の絵画の道を拓いてゆく時期と重なっている。そしてまた、画家自身が構想する美術史のヴィジョンを記述するという試みが展開されるなか、「過去の美術」をめぐる探究は、近代および同時代の美術をめぐる考察にも反映されることになっていった。画家は、セザンヌ、ファットーリ、セガンティーニらを含む「超近代的な絵画(pittura modernissima)」のうちに存する神秘的要素に注目し、「新たな中世」の到来の予感を記す。ジョットをめぐる探究は、たとえば、アンドレ・ドランの作品のうちに、ジョット的な「形態上の無力(incapacità formale)」の表現に類似するものを見いだすという視点をも与えていた(注15)〔図3〕。その途において書かれた「明日の芸術(L’arte di domani)」(1918年)は、第一次世界大戦の体験がいかにして、画家に、あらゆる時代に普遍的な「芸術的価値」に学んだ、より内的でより「悲劇的な歌」としての絵画芸術の創造を決心させたかをよく示す文章のひとつである(注16)。「全時代(tutti i tempi)」、あるいは「あらゆる世紀(ogni secolo)」の芸術、と画家は繰り返す。未来と進歩、古典古代と記憶という、一見して真逆の方向を向いた、イタリア20世紀初頭に生まれた二つの大きな芸術潮流である未来派と形而上絵画の両方を生きた唯一の画家であるカルラは、内的な「悲劇」の感覚から発して、あらゆる時代の、あらゆる過ぎた時間に生まれた芸術作品をめぐる、造形的および美学的な探究─「芸術の目的は、遠近法あるいは解剖学の諸々の問題の解決のうちにではなく、より高次な美学的享楽の探究のうちにある」(注17)─のなかで、より超越的な芸術(史)の時間をみいだす。カルロ・カルラは、そこにこそ「第二の空間の創造(creazione del secondo spazio)」、すなわち彼にとっての来るべき絵画の可能性を託したのであろう。124頁。

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