― 572 ―よるのみとなっていて、日露戦争中の『戦時画報』には見られない。日露戦争前の作品を見ると、「二十六夜侍」、「月下の逍遙」(いずれも『近事画報』2巻2号、明治36年10月)のうち、前者は夜の見晴らしがきれいな料亭で、景色を見るために来たものの、薬が効きすぎて、良い景色が見られなくなったことを描いている。後者は、月の光が照らす夜道において、人影は黒い固まりになった部分を描いている。「靖国神社大祭」、「秋の空」(いずれも『近事画報』2巻4号、明治36年12月)については、前者は軍人、猿芝居、煙草売りといった靖国神社大祭におけるそれぞれの情景を描いている。後者では若い女性が主人公になり、雨が気になるが、食べ物に夢中になり、その後雨に入る、といった一日の動向をまとめている。「金貨百圓は何処」(『近事画報』2巻6号、明治37年2月)については、同誌が先に掲載した国木田独歩による小説「親子」を読めば金貨百圓が手に入る、との同誌による広告を受け、大挙して百圓を手に入れようとした人々の様相と、最後に成功した人の喜びを描いた。日露戦争後の作品を見ると、「戒厳令下の東京」(『近事画報』69号、明治38年10月)では、各地での検問の状況を描いたうえで、空気銃を子供から押収するという個別の状況も、コマ絵で紹介している。「大地震のうわさ」(『近事画報』81号、明治39年2月)では、各コマの主人公が、「大地震のうわさ」を聞いたうえで反応するところを描いている。「余寒防禦策」、「雪解け道」(いずれも『近事画報』84号、明治39年3月)では、前者では、寒さが続くなかで、頭を曲げるあるいは酒を飲むといった人々のコマを描く。後者では、雪解け道が続くなかで、子供は竹馬に乗って駆け、大人の男女は下駄の歯形を調整する様子を描く。「春雨」(『近事画報』87号、明治39年5月)では、春雨が降ってきたときの人々の様相を、各コマで対比しながら紹介している。⑿ 明治時代における満谷国四郎の油彩画を考えるにあたってこれまでに見たとおり、『近事画報』『戦時画報』について、口絵とコマ絵の諸相について紹介した。戦争に関する主題の作品としては、現存する作品では『林大尉戦死』が知られ、『露西亜捕虜図』は『勝利の片影』の関連作であることが第1章で示されたが、本章で紹介した口絵のなかには、第1項の日露戦争(日本軍の侵攻)、第2項の日露戦争(ロシア軍の敗退)、第3項の日露戦争(対話や眺望について)、第5項の
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