鹿島美術研究 年報第28号別冊(2011)
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4.2004年度助成― 576 ―① 中国の如来倚坐像に関する調査研究─龍門石窟の作例を中心として─研 究 者:武蔵野美術大学 非常勤講師  萩 原   哉一 はじめに中国の如来倚坐像は、5世紀前半から以後各時代にわたる数多くの作例が知られている。その尊格をめぐっては、主に初唐期の石窟造像や単独石像に「弥勒」銘を有するものが多くみられること、敦煌石窟の唐代壁画のうち、弥勒下生経典にもとづいて描かれた弥勒浄土変相図の主尊・弥勒仏が、いずれも如来倚坐像であらわされることなどから、初唐期以降の作例については基本的に弥勒仏に比定されることが指摘されている(注1)。しかし、如来倚坐像は本来、弥勒仏に固有の図像ではなく、弥勒関係の経典にも弥勒仏を倚坐とする明確な根拠をみいだすことはできない。また、初唐期以前の如来倚坐像には、「釈■」や「阿弥陀」の銘を有するものもあり(注2)、それが初唐期ころまでに弥勒仏の図像として定着するにいたった過程や要因は必ずしも明らかにされていないように思われる。そうした中国における如来倚坐像の展開を具体的に把握することを目的として、報告者は、中国各地の如来倚坐像について、現地調査と関連資料の収集をおこない、その成果を集約したデータベースの構築を進めている。その一環として本報告では、中国のなかでもとりわけ多くの作例が現存する龍門石窟の如来倚坐像について、整理・分類をおこない、その検討を試みることで中国における如来倚坐像の展開の一端を示してみたい。二 龍門石窟の如来倚坐像『龍門石窟総録』等の図版や記載、報告者がこれまでに実施した現地調査の成果にもとづき集計した結果、龍門石窟に現存する如来倚坐像は280件を数える(注3)。題記や作風などからそれらを時代別に分類すると、北魏時代17件、東魏〜北斉時代3件、唐代260件となり、隋代については現時点で作例を確認できない。その現存状況は、北魏時代と唐代をピークとする龍門石窟における造像活動の盛衰に対応するものと捉えられるが、とりわけ多くの作例が現存する唐代に、如来倚坐像の造像が盛んにおこなわれたことを示すものともいえる。この時代別の分類にもとづき、以下、北朝期、

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