鹿島美術研究 年報第28号別冊(2011)
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― 597 ―象は、海外の美術館や展覧会に現れることで、これを受け入れる場所や文化との直接的な対話をもたらし、その受容と影響という問題を直に提起するものとなっている。このような国境を越えた行き来の例として、2010年5月にオープンした坂茂のメッス・ポンピドゥーセンターが挙げられる。坂氏はまた、2000年のハノーヴァー万博で日本館の設計を担当したが、段ボールで製作された本作品は2001年に世界建築賞を受賞した。また、2006年にヴェネツィア・ビエンナーレ建築展で日本館のコミッショナーを務めた藤森照信氏は、西洋では現在、木の上に作られた茶室の設計者として有名である。周囲の自然と風景に調和した、永続的でエコロジーに配慮した建築を求める新しい要求と期待に応えるこれらの作品はまた、空間と伝統的素材を、現代的な形式と用途に融合させようとするものである。そこで、今日の世界的傾向にこれほど合致する、こうした日本の現代建築の成功の理由とその影響を理解するには、本シンポジウムで目指したように、まず日本の建築・庭園の理論的、実践的基本に立ち戻り、明治以降20世紀前半にかけて、それがどのように西洋に伝わり、近代性へと変化を遂げ、そして国境を越えていかに他者から借用し、あるいは他者に影響を与えてきたのかを分析することが重要となってくる。Ⅱ.理論、形式の両面における、日本建築の受容と普及のプロセスの方法、ねらい、影響を把握するために、発表者それぞれが建築、庭園、または建築家の経歴の具体例をひとつ挙げて検証した。ブノワ・ジャケとヨラ・グロアゲンはそれぞれに、桂離宮、アントニン・レーモンドの軽井沢の「夏の家」に見られる、近代建築の誕生への様々な寄与について検証した。さらに、ケン・オオシマ、内山尚子、田路貴浩が、山田守の先駆的功績と評価、イサム・ノグチによるユネスコ庭園、オランダ建築と堀口捨己の茶室を通して、「国際様式」の定義、意味、背景、また文化的アイデンティティーや文化的他者性の要求、そして建築・庭園の受容と普及によって起こる移動や融合といった重要な問題を個人、国家、世界という次元で、写真や文芸という媒体を通して取り上げた。この異文化間の対話の中で、フランスで「アントニン・レーモンドの建築における西洋の近代運動の導入と応用」と題する博士論文を執筆中のヨラ・グロアゲン、そしてイサム・ノグチの国際的な作品に見られる日本との関係性について考察する、西洋美術史専攻のお茶の水女子大学大学院生、内山尚子の2人の若い研究者の参加もまた、日本の建築空間や風景の受容と刷新に表れる、文化と眼差しの出会いの意味とそこから生じる反響を知る手がかりを提供してくれた。フランス建築が専門の元岡展久を進行役に進められたパネル・ディスカッションで

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