鹿島美術研究 年報第28号別冊(2011)
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― 598 ―は、発表者全員が参加し、1時間半の間日本語で意見が交わされた。ディスカッションを行うことで、本セッションはより充実したものとなり、ディスカッションを通して、各発表に通じる共通点が浮き彫りにされた。さらに極東における「風水」がテーマであった前日の第1セッションでの問題提起との関わりも明らかになった。また、聴衆から寄せられた質問をもとに、例えば『作庭記』をはじめとする庭に関する文書の、西洋における受容の歴史に関するいくつかの問題点や、庭園の構想、維持と時代、自然との関係、日本庭園の比較文化的視点から見た特徴、近・現代建築の理論と実践における桂離宮や茶室建築の位置などについて、各発表者はセッションでのキーポイントを再確認することができた。これまでの国際日本学シンポジウムでの様々な出会いの延長としての今回のシンポジウムは、文化による方法論の違いを問いながら、真の知の交流をもたらした。今回は初めてEFEOとの共催で開かれたわけだが、その結果、極東研究で100年以上の歴史をもつこの権威ある研究施設とお茶の水女子大学との間に、交流の絆が生まれることとなった。EFEOは今後も同大学比較日本学教育研究センターと大学間協定の締結による交流の持続を検討している。また、本助成により、近代建築史の分野で現在最も注目されるダイナミックな研究者の一人であるケン・オオシマ教授を招聘することでアメリカとの学術ネットワークを強化することができ、発表者の一人、内山尚子氏らお茶の水女子大学の学生や教員に、ワシントン大学やコロンビア大学での研究滞在という新たな可能性が開けた。このシンポジウムに参加した研究者らにとり、プログラムの作成、EFEOやアメリカの諸建築学会のHPへのシンポジウム情報の掲載といった準備段階から結ばれていった学術的繋がりは、個々の研究内容を明確にすることに加え、その研究内容を日本だけでなく欧米にも広めるという大きな役割を果たした。1980年代初めより、世界各地の風景の歴史、定義、存在論という枠の中で、学際的な建築・庭園研究が発展し、数々のシンポジウムや講演会、出版という形に反映されているが、この7月4日に行われたような、国際日本学という枠組みで展開されるシンポジウムは非常に稀である。今回のシンポジウムの革新的で刺激的な側面を意識し、比較日本学教育研究センターとEFEOは、それぞれの紀要(『比較日本学教育研究センター研究年報』、Cahierts d’Extrême-Asie)を通して、日仏二カ国語で議事録を発表し、日本と欧米に広くその成果を広める予定である。

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