― 599 ―② 「国際美術史学会会長ジェニー・アンダーソン講演会」期 間:2010年12月6日〜9日場 所:日本、国立西洋美術館 地下2階講堂報 告 者:慶應義塾大学 文学部 教授 遠 山 公 一ジェニー・アンダーソン氏は、オーストラリア・メルボルン大学教授、かつ国際美術史学会の会長である。氏は、このたび名古屋で開催されるユネスコ哲学・人文学会議出席のため来日される機会に、東京での美術学会会員との交流を強く望まれた。美術史学会は氏を通じての国際美術史学会との交流とともに、国立西洋美術館で開催中の「アルブレヒト・デューラー版画・素描展 宗教/肖像/自然」の会場で、氏の専門であるヴェネツィア16世紀の美術に関する講演を西洋美術館とともに主催した次第である。同美術展は、氏の所属しておられる大学のあるメルボルン市のヴィクトリア美術館から、展示作品の大半が出品されているという事情があった。このたびは絶好の機会に恵まれ、多くの聴衆を集め、12月7日午後5時より西洋美術館地下2階の講堂において、氏の講演が開催された。したがって、アンダーソン氏の東京での滞在には主に2つの重要な目的があった。第一に西洋美術館での氏の講演、第二に国際美術史学会と日本の美術史学会との交流である。ここでは、まず、講演「デューラーがヴェネツィアで見たもの─デューラー滞在期のヴェネツィア絵画と演劇」について報告する。事前に氏から送られてきたテクストを翻訳し、同時通訳の準備をした。同時通訳は、イデオリンクの同時通訳者横山氏と慶應義塾大学の院生である新倉槇右とヴォズミ・ミオッシュによってなされた。そのテクストは講演予定時間の1時間余りでは収まらない長さであったために、直前にアンダーソン氏に短くするようにお願いし快諾された。講演内容は、デューラーがニュルンベルクから特に第二回目のヴェネツィアを訪問した1506年から翌年にかけて見る機会のあったヴェネツィアの絵画事情だけでなく、当時のヴェネツィアの演劇や同信会の活動が対象となった。ヴェネツィアには他の多くのイタリア都市と同様多くの広場があるが、それらは容易に演劇空間へと変貌して、あらゆる階層の人々がそこで演劇の観客となる可能性を有していた。サン・マルコ広場やピアツェッタ(小広場の意)が最たる例であり、そ
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