鹿島美術研究 年報第28号別冊(2011)
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5月23日には、ハイファ大学東アジア学科で発表を行った。これは毎月行われている同学科のコロキウムでの発表で、司会は学科長のミキ・ブル、紹介者としてアイェレット・ゾハルが立った。タイトルは東アジア学会での発表と同じもので「家族を展示する/死を陳列する:日本の遺影写真」であり、発表は50分行われた。内容としては、日本の遺影写真が歴史的にどのように始まり、展開してきたのか、その文化的背景と技術的側面についての解説を前提に、現代の写真家たちが、そうした遺影写真の伝統を現代写真にどのように翻案し、解釈しているのかを紹介した。その後、質疑応答が行われ、活発な議論が行われた。内容としては、遺影を展示するという行為をめぐって、宗教的背景に基づいた日本とイスラエル人の感じ方の違いに注目した質問が多く出された。その中で、日本における遺影写真を伝統が、かならずしも仏教の習慣とは関連なく成立したものであること、むしろ日本の写真がたどってきた歴史のなかで成立したものであることに改めて気付かされた。質問者からは近年、イスラエルで中央アジア系の移民の墓石に写真のレリーフが彫刻されることが宗教的に問題となっている事例が紹介され、故人の「顔」が展示される場というものが、民族的・文化的な共同体のなかで強固に維持されているものだということが議論された。最初の発表― 604 ―⑶ 海外派遣① 「日本の遺影写真・  近代写真をめぐる写真史的研究についての学会発表及びレクチャー」期   間:2011年5月21日〜6月1日(12日間)出 張 国:イスラエル報 告 者:東京大学大学院 人文社会系研究科 博士課程  戸 田 昌 子2011年5月22日にテルアビブの空港に到着したのち、最初に訪問したのはハイファである。ハイファはイスラエルの中でも、最も民族融和が進んでいる文化的な町であり、アラブ系住民とユダヤ系住民が比較的近い場所で生活している。新興宗教バハーイー教の総本山バーブ寺院があることでよく知られ、このこともこの町の懐の深さを示している。ハイファ大学は、カラメル山の頂上にあり、今年度はエルサレムのヘブライ大学で第10回目を迎える東アジア学会の、第9回目大会が行われた場所でもある(来年度はテルアビブ大学で行われる)。ハイファ大学のなかで日本学が研究されている学科としては東アジア学科および美術史学科がある。

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