鹿島美術研究 年報第29号別冊(2012)
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リ・モニュメント、ピエリーノ・ダヴィンチの《サムソンとペリシテ人》〔図5〕、ジャンボローニャの《ピサに勝利するフィレンツェ》などである。ダンティの作品はピエリーノの作品とともに、そのもっとも初期の作品に属する。マニエラの彫刻の特質として通常強調されるのは、螺旋構図や多視点性である。しかし、そればかりでなく、この作品は以下の特色を有する。⒜深層効果/表層効果《虚偽に打ち勝つ名誉》はその大きさに比して、意外なほど量感の効果を欠く。それは表面のテクスチュアを等質的、均質的に変化させることによって量感を把握しようとするからである。この結果、量感は光の戯れに近くなり、また彫像を抽象的で装飾的なものとする。しかもそれは光の戯れを感得させても、明暗のニュアンスを感じさせることは少なく、こうしたむしろブロンズ効果にも似た繊細な大理石の処理は〔図7、9、12〕、しばしばマニエラの彫刻を絵画、特にサルヴィアーティやブロンズィーノなどの絵画にも似た傾向にするもので〔図9、10〕、抽象的で絵画的なマッス、グラフィックなマッスの表層効果と呼ばれるにふさわしい。⒝求心性/遠心性ミケランジェロの《勝利者像》を始めとするルネサンス彫刻では、量感は内部へと向う求心性を有する。中心軸線の存在は、いかに複雑な形態においても感得されるべきものとして強調されるため、それは自立した単体、単独の物体として立ち現れる。しかし《虚偽に打ち勝つ名誉》の場合、私見では、なるほど《勝利者像》以上に「円柱状」をなす軸線の形態把握を、明らかに意識して作り上げているにもかかわらず、量感を優雅な装飾面の処理として、表面の輪郭において扱おうとするため、軸線の存在はさほど強調されず、彫像は外部へと向かう遠心性を露呈させ、その存在は輪郭の外に広がる複合体、外部の環境空間との相関において立ち現れるという特質を露呈させることになっている。⒞一元性/多元性《虚偽に打ち勝つ名誉》は、多視点像であり、垂直に置かれた構成の中で、下の像はまったく逆からしか見られずに反転、しかもその像はきわめて複雑な形象をしている。言い換えれば、運動は表面の装飾処理に対応して多元化し、装飾性と表現性を同時に実現しようとする対立した原理を含んでいる。こうした洗練された抽象的な表面効果、単体的軸線の原理を放棄した環境・雰囲気空間への広がり、運動と優雅な表現性の強調は、私見では従来看過されがちだったものの、彼の後の芸術論『完全比例論』の美学の一面を想起させることにも留意してお― 150 ―

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