例と考えられる。龍巌寺本の涅槃変相図部分には、画面中央に涅槃の場面が描かれ、画面半分より上に変相図が配されている。八相涅槃図とは異なり場面は五つのみとなり、「虚空上昇」、「金棺不動」、「金棺旋回」、「大■葉接足・荼毘」、「分舎利」が描かれている。そして画面の左右端にはそれぞれ仏伝図が描かれており、画面右側は下から上に向って「下天托胎」、「占夢」、「朝賀」、「誕生」、「獅子吼」、「二竜灌水」、「試芸」、「三時殿」、「四門出遊」が描かれ、左側は下から上に向って「出家踰城」、「兵士追尋」、「剃髪」、「山中修行」、「吉祥献草」、「降魔」、「初転法輪」などが描かれる(注7)。このように画面左右端に仏伝図を配する例は福井・劔神社本に見られる特徴であるが、涅槃変相と組み合わせる例はごく限られる。注目されるのは、龍巌寺本に描かれる涅槃変相の五場面は、『四座講式』の「涅槃講式」の記述に見られる説話内容そのままであり、龍巌寺本に描かれる説話の場面設定に関して、『四座講式』の影響が色濃く見受けられることである。『四座講式』は先に述べたとおり「涅槃講式」、「十六羅漢講式」、「遺跡講式」、「舎利講式」の四段からなる。そこに説かれる場面としては、①「顕紫金身」、②「虚空上昇」、③「涅槃」、④「金棺不動」、⑤「金棺旋回」、⑥「大■葉接足」、⑦「荼毘」、⑧「分舎利」の八場面が挙げられる。これを龍巌寺本の各場面と比較すると、①「顕紫金身」に該当するものが見られないが(自性院・安養院本と同様に「虚空上昇」とセットにしたと思われる。)、⑥「大■葉接足」と⑦「荼毘」はセットで描かれており、「涅槃講式」の内容がほぼ過不足なく表現されていることに気付く。また梶谷亮治氏の指摘にあるように、龍巌寺本の涅槃部分に描かれる沙羅の木が、上方で折れ曲がり釈■を覆う天蓋となっている表現も、自性院・安養院本と同様『四座講式』に説かれる内容を絵画化したものと考えられよう(注8)。龍巌寺本の画面両脇に描かれる仏伝図に関しては、『四座講式』の冒頭部分に以下のような記述がある(注9)。第一顯入滅哀傷者。凡如來一代八十箇年。■韋誕生。伽耶成道。鷲峯説法。雙林入滅。皆起從大慈大悲。悉出從善巧方便。明恵は、釈■が現世に生まれ八十年にわたって生きた事跡というのは、全て釈■の慈悲により、衆生を悟りの境地へ導くためであるとしている。つまり龍巌寺本の涅槃場面の両脇に仏伝図が描かれる背景には、釈■の事跡を追うことで自らも悟りの境地― 159 ―
元のページ ../index.html#169