鹿島美術研究 年報第29号別冊(2012)
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ーメイドについてはさほど踏み込んだ見解は示してはいないように思われる。本論文は《フォリー=ベルジェールのバー》に先立って描かれたカフェ・コンセールを主題とした作品に着目するとともに、女給仕とバーメイドを連続的なものと捉えながら、これまでの先行研究で明らかになってきた製作プロセスを踏まえ、新たにそれらの作品が《フォリー=ベルジェールのバー》へ収斂していった過程を女給仕/バーメイドの位置付けを中心としながら分析・解釈をおこなうもので、これまでこうした研究は殆ど見当たらない。またこれまでの先行研究が大衆イメージを参照する傾向にあったことから、本論文ではハイアートの作例を比較の対象とすることにもうひとつの力点を置きたい。1.カフェ・コンセール主題の作品①1−1.《レクスオフェン》マネは《フォリー=ベルジェールのバー》の制作に先立ち、70年代終わり頃からカフェ・コンセールを主題とした油彩作品数点を残している。これらは70年代半ばから描いていたスケッチから発展したもので、この時期から晩年にかけてのマネの関心の在処がこれらのカフェ・コンセールにあったことを裏付けるとともに、時期及び主題の両面においてこれらの作品を《フォリー=ベルジェールのバー》の前段階として考えることができる。カフェ・コンセール主題の作品については、これまでの先行研究から《カフェで》〔図2〕と《カフェ・コンセールの一角》〔図3〕がもともと《レクスオフェン》とされる一枚の作品として描かれ、複雑な段階を経て現在の二作品へ至ったということが判明している(注5)。“レクスオフェン”というのは19世紀当時実在した店の名である。特にマルコルム・パークは、歌手が立つ舞台を含んだカフェ・コンセールを描いた《レクスオフェン》の再構築を試みており、《カフェで》を左に、《カフェ・コンセールの一角》を右にし、両者を併せた際、中央にくる領域に舞台と歌手が描かれていたとしている(注6)。《レクスオフェン》で描かれていたとされる上演部分は、スケッチの《カフェ・コンセールの女歌手》〔図6〕、《カフェ・コンセールの女歌手》〔図7〕、《カフェ・コンセールの情景:観客と歌手》〔図8〕をもとにしている(注7)。比較的初期の段階でこのステージ部分は消し去られ、現在の《カフェで》の画面奥に見られる横顔の少女と、ハンロン・リーのポスターが描き込まれた。パークの再構築に従って初段階の《レクスオフェン》を考えると、画面中央奥に女― 186 ―

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