2、閩江流域の黒釉碗2−1 分類と時間軸黒釉の碗類については、基本的な分類法は福岡県の博多遺跡で大量に出土する所謂天目碗類の器形をもとにした森本朝子氏の形式分類に従う方法をとった(注4)。閩江全域の出土資料を実見することは時間的にも制約があり、また図録・報告書等も利用しながら分類を行うため、今回はより詳細な分類は避け、大別の分類基準に従った。また福建地域の出土事例の状況をもとにさらに必要に応じて形式を追加した〔図2〕。すなわちⅠ類:断面逆三角形の平茶碗Ⅱ類:外反口縁の碗Ⅲ類:断面逆三角形の深碗Ⅳ類:「建盞なり」の碗Ⅴ類:誇張的に表現された天目碗Ⅵ類:口縁のくびれの強い碗Ⅶ類:口の内碗する平茶碗Ⅷ類:高台脇を水平に削る深めの碗Ⅸ類:丸碗Ⅹ類:碁笥底状の碗ⅩⅠ類:外底刳り貫き畳付がほとんど形成されない碗である。なお博多遺跡での出土例からは、Ⅰ類、Ⅲ類が12世紀前半、Ⅳ類が12世紀後半頃に見られる。そしてⅤ類が13世紀中頃から14世紀前半頃を中心に、Ⅶ類が13世紀後半から14世紀前半に見られるようになることが、その他の年代の推定が可能な陶磁器類との共伴関係から明らかにされている。ただしⅧ類については、韓国新安沖沈船の出水例(注5)から古くは14世紀中ごろから見られるが、現在では主に14世紀後半から15世紀中頃に輸入の中心となっていると考えられている(注6)。Ⅹ類とⅩⅠ類については、今回福建地域の窯址資料から設定した形式であり、博多遺跡では出土例がないものと思われる。一方、中国においては、Ⅰ類は紀年銘をもつ事例はないが、初鋳が1004年の銅銭である景徳元宝のほか北宋年間の銅銭が出土すること、また青白磁が北宋後期の景徳鎮の特徴をもつことから、11世紀代には出現していたと思われる(注7)。Ⅱ類は紀年銘資料はないが、形式的にⅠ類とⅢ類の中間的特徴であることから、11世紀〜12世紀― 13 ―
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