レスは右手に持ったリュトンから左手に持った器へとワインを注ぐ様子で表現されていると推測される。この儀式の下には、植物を背景に二匹の蛇が左右対称に祭壇の上の捧げものへと頭部を向ける様子で表される。3.domusにおけるlarariumの設置場所と機能カスティリオーネ・モレッリ・デル・フランコは、メナンドロスの家に置かれていたとされるlarariumからその役割に関して考察を行った(注35)。そして、訪問者から見えるようにアトリウムに設置されたlarariumで主人が儀式を行うことで、larariumは家族の伝統を家族外の者に示していると考えた。これに対して、フレエリッヒは多くのdomusにおけるlarariumの配置に関して調査を行った。ラレスあるいはゲニウスのうち少なくとも一方が表されたlarariumが54の台所など使用人の領域(Bedienstetenbereich)で見つかっている一方、アトリウムや寝室など主人の領域(repräsentativen Wohnbereich)では23例が発見されている(注36)。使用人の領域で見つかっているlarariumは使用人などが用いるものであり、家の主人が祭儀を行ったものとは異なっていたのだろうと示唆する(注37)。さらに、主人の領域から発見されている23のlarariumは全て小規模あるいは中規模の家から発見されており、大規模な家やヴィッラからは見つからなかったと指摘する(注38)。大規模な家の主人の領域にゲニウスやラレスが描かれないのはなぜだろうか。フレエリッヒはdomusから見つかった神像の多くは主人の領域から発見されていることを挙げ、そこでは祭壇ではなく、神像を用いた儀礼が好まれていたからであろうと示唆している(注39)。そして、文献資料において描写されている私的領域での祭儀は基本的にはdomusにおける主人の領域での様子であり(注40)、使用人の間や商店における儀礼の様子について記述したものは残されていないと指摘する(注41)。フォスは使用人の領域とlarariumとの関係に着目し、ポンペイの10の隣接したinsulae(集合住宅)(注42)に見られる使用人の領域である台所、主人の領域である居間、そして神の崇拝の場との関係を調査した(注43)。調査した154の家のうちの55(36%)に少なくとも一つの固定式の祭壇が見られ、そのうち20(36%)では、台所と関わる場所に祭壇が設置されていた一方、居間と関わりのある祭壇は4(7%)しかなかった。こうした例証によって、フォスは次の三つの観察を行った(注44)。まず、larariumは食事をする居間より、食事の用意をする台所とより深い関係がある可能性が高いと指摘した。そして、小規模な家では一つの祭壇が多くの神々のためのものとして機能― 242 ―
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