鹿島美術研究 年報第29号別冊(2012)
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白に示されている(注24)。えること)も〈聖霊〉(と唱えること)も同じことだと言った。さて、ここで興味深いのは、カラファ礼拝堂右壁面下段に描かれた《聖トマス・アクィナスの勝利》〔図7〕において、伝統図像に大きな改変を加えることによって、まさに三位一体の教義に背いた異端者たちを非難する画面が構想されている点である。3.カラファ礼拝堂《聖トマス・アクィナスの勝利》における「三位一体」の論議 ─アヴェロエスの不在《トマスの勝利》の図像は、1333年のトマスの列聖を記念して制作されたピサの板絵を嚆矢とする〔図8〕。画面の中央では正面観で描かれた聖人が彼の代表作である『対異教徒大全』の本を両手で持っている。トマスの周囲には、トマスの思想に影響を与えたモーセ、パウロ、四福音書記者、プラトン、アリストテレスが描かれ、一方で足下にはイスラムの哲学者アヴェロエスが横たわることで、トマスの思想からアヴェロエスの思想を分断している。トマス思想の系譜を視覚化したこの板絵の構図は基本形として受け継がれていった(注25)。ところが、カラファ礼拝堂の《トマスの勝利》には、本主題の最も重要な構成要素であるはずのアヴェロエスが描かれていない。トマスの足下に横たわっているのはアヴェロエスではなく、悪徳の擬人像なのである(注26)。代わりに前景には六名の異端者が現れるが、既にガイガーが指摘して第13条 また、このベルナルディーノは、公の場で説教する際に、何度も「この〈イエス〉という用語は、それ自体に、父、子、聖霊を含んでいる」と言った。第14条 また、このベルナルディーノは〈父〉(と唱えること)も〈子〉(と唱第15条 また、修道士ベルナルディーノは、何度も引用したが、「キリスト教における救済のために必要なあらゆる事柄のうち、イエスの名を祈ることだけで十分である。」と言った。そして、イタリア語では、〈In nome del bon Gesù〉と唱え、ラテン語は、〈In nomine Iesu〉と唱えたが、この言い方は、聖なる「三位一体」の教えやキリスト教会が信仰している(「三位一体」の)位格に由来するあらゆる事柄の意味を台無しにするものである。― 264 ―

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