鹿島美術研究 年報第29号別冊(2012)
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 唵阿蜜栗〈二合〉多帝際賀羅吽〈引〉印   左右大指無名指相合当心〈○朱小呪印依無本文。師説不同也。或用内縛中指蓮形印。〉(『大正図像』3、9頁a。〈 〉内は割注、以下同じ。)とある。小呪に対応する印として、左右手の第一指(大指)と第四指(無名指)を合わせて心に当てるという印を挙げるが、これは『集経』の阿弥陀仏輪印と同じである。つまり中世においても、阿弥陀説法印は阿弥陀小呪を称える行のための印と認識されていたのである。ただし、『集経』には説法印に対応する小呪が具体的に挙げられていなかったのに対し、『図像抄』では「唵阿蜜栗〈二合〉多帝際賀羅吽〈引〉」という小呪を説法印に対応させている。この小呪は、阿弥陀法の根本儀軌である不空訳『無量寿如来観行供養儀軌』(以下『観行供養儀軌』と略す)に説かれるものであるが、同儀軌はその効能について、誦十万遍満。得見阿弥陀如来。命終決定得生極楽世界。(『大正蔵経』19、72頁b)と説く。小呪を十万遍誦せば阿弥陀如来に見えることを得、命終して必ず極楽に生まれることを得るという。『集経』が説く阿弥陀の説法印に対して『観行供養儀軌』の小呪を対応させた点に、中世における説法印への新たな解釈があったといえる。さらに、『白宝口抄』巻第八「阿弥陀法第六 決定往生印事」では、決定往生印の一つとして『集経』の説法印(転法輪印)を取り上げ、次のように述べる。或云輪印。集経二云。弥陀輪印。左右手以二大指各捻無名指頭。右押左当心〈云々〉。最極秘中之秘密。決定往生上品上生蓮台。(中略)彼印効能四重五逆消滅印故也。然者決定往生云。尤可爾也〈以上〉。(『大正図像』六、三七七頁b)阿弥陀説法印(輪印)について、必ず上品上生の蓮台に往生するものであるとし、この印の効能が四重罪五逆罪を消滅する印であるため、決定往生というのはもっともなことだとする。中世において、説法印は決定往生、滅罪の功徳のある印として再認識されたのである。以上のことから、願成就院阿弥陀如来坐像においては、願主北条時政が自身の滅罪と極楽往生を願い、阿弥陀小呪を唱えて日々供養する対象とするために、説法印が選択されたと理解する。― 285 ―

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