研 究 者：美術史学会 明治美術学会員 浅 野 智 子はじめに明治半ばより、東京において規模や内容の多様な美術家コロニーが形成されるようになる。それらは親睦の場を、または修養の場を美術家に与えたが、こうしたコロニーを単に美術家の集団化の一例としてではなく、美術家の社会的意識の現れとして解釈できるのではないか。そうした視座に立ち、本研究は明治半ばから昭和戦前期にかけて東京を中心とする地域で形成された美術家コロニーの形成過程を調査することで、背景にある美術家の意識を検証することを目的としている。また、海外の美術家コロニーとの比較を通して、日本の近代における美術家の社会的意識の独自性も探っていく。研究にあたっては、まず、どの様な「美術家」意識がどの様に形成されていったのかを美術家の言説から探った。次に、美術団体の設立の動向を追うことで、美術家の集団化の特徴を捉え、なかでも地縁による美術家団体の時代的特徴と活動内容を調査した。最後に、海外の美術家コロニーとの比較を通して、日本近代における美術家コロニー形成過程にみる「美術家」意識の独自性について考察した。日本における「美術」の用語は、明治5年（1872）のウィーン万国博覧会出品区分名称に記載された翻訳語として登場した。「美術（西洋ニテ音楽、画学、象ヲ作ル術、詩学等ヲ美術ト云ウ）ノ博覧場ヲ工作ノ為ニ用フル事」（注1）と記されたように、第1章 「美術家」概念の成立18世紀中頃、「art（仏、英）」の語は、語源となるars（羅）に由来する技術あるいは有用性という語義を弱めて趣味や快感のための美的表現の追求が現れる活動と作品の総体として用いられるようになり、19世紀初頭には一般化した。同時に、その活動主体としての「artist（仏、英）」も、従来の職人や手仕事を行う者の意から、画家、彫刻家、版画家などの視覚美術に携わる者へと限定されてゆく。こうした語義変化の背景には、芸術に対する実利的でも宗教的でもない態度の一般的確立と、芸術家の社会的身分の変化があった。同時期ヨーロッパ各地で展開されたロマン主義の、個人の感性と創造力の優越を主張し、自我の自由な表現を追求しようとした風潮は、純粋な個性の発露としての創作活動を促し、職人ではない創作活動の主体としての社会的認識を美術家に与えたのである。― 25 ―③美術家コロニーの形成過程にみる日本の美術家意識の独自性についての研究
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