鹿島美術研究 年報第29号別冊(2012)
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栃木県博本〔図2〕と、長谷川家本〔図3〕、尾形家A本、B本の画面はほぼ一致し、中央に並んで牙で地面を耕す白象と黒象、そのやや右後ろで左肩に鍬を担いで立つ大舜、画面左から枝をのばす樹木とその周囲に鳥を描く。栃木県博本、尾形家A本、B本では大舜が総髪であるのに対して、長谷川家本では結髪、長谷川家本、尾形家本では鳥の数が少ないといった違いはあるが、全体の構図、手前に配される岩と灌木、樹木の枝振りもほぼ同じといってよい。嵯峨本、『詩選』の図様もおおよそこの図様と類似する。これに対して京都芸大本は、主要モチーフは共通するが、画面左手前に白象、その後ろに横を向く黒象という配置で、大舜は画面右手前で鍬に足をかけて地面を耕す場面が描かれており、その構図は異なる。押絵貼形式以外の例を見ても、いずれも画面の基本的なモチーフ、構成は栃木県博本などと共通しており、京都芸大本だけが他と異なる画面構成となっている。・漢文帝母の薄太后に孝行だった漢文帝が、自ら毒見をした食事を母に運ぶ様が描かれる。栃木県博本では画面左の建物の室内に椅子に座る薄太后と女性の従者二人、その右斜め前の室外に器の載った盆を持つ漢文帝と従者の童子が横向きに描かれる。長谷川家本はこれに庭前の樹木までほぼ一致し、尾形家A本、B本は建物、嵯峨本は女性の従者の向きなどに若干の違いがあるが、その図様、構図は概ね同じである。女性の従者の一人が団扇を、童子が盆に載せた器を持つ点も共通する。漢文帝と薄太后が対面する構図は『詩選』も同様で、これが漢文帝図の基本的な構図であることがわかる。京都芸大本は描く場面は同じだが、建物はやや広く、漢文帝は左斜め向きで廊下らしき場所に立っており、その構図は大きく異なる。また、建物の装飾も非常に丁寧に細部まで描き込まれ、画面手前には牡丹の花も表され、画面全体の雰囲気は他の作例とは全く異なる。詳細な建物・室内描写、庭前の草花表現は他の図にも見られ、京都芸大本の特徴の一つといえる。・丁蘭栃木県博本は、画面左に母親の像を祀った建物、その像に向かって礼拝する横向きの丁蘭、その隣に妻と思われる女性が立つ構図で、長谷川家本、尾形家A本、B本もこれに同じである。嵯峨本も同様の構図で、画面右側に建物が追加されている。京都芸大本も栃木県博本を左右反転した構図であるが、母だけでなく父親の像も祀られている点が異なる。押絵貼形式以外の大画面、扇面の作例にも、両親の像を描く例は管― 345 ―

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