鹿島美術研究 年報第29号別冊(2012)
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研 究 者:細見美術館 主任学芸員  福 井 麻 純はじめに中村芳中は江戸後期に大坂を中心に活躍した琳派絵師として知られる。その代表作が享和2年(1802)に江戸で刊行した『光琳画譜』であること、また現存する作品に琳派風の扇面が多数みられること、また芳中が当時「倣光琳筆意」(注1)や、「光琳風画家」(注2)と評されていたことなどが、芳中を琳派絵師として位置づける根拠となっている。現存する芳中の作品では扇面画が最も多く、得意分野であったことが推察されるが、描きぶりや署名などによって数種のタイプが認められる。これを編年と捉えるのか、工房の存在を想定するのか、あるいは後世の作を疑うのかという点については、現在も積極的には論じられていない。唯一の芳中画集である木村重圭氏による『中村芳中画集』(注3)には、多数の扇面画がモティーフごとに紹介され、木村氏による芳中論が収められているが、その中で氏は、扇面画は晩年に最も多く描かれたと推察されている(注4)。今回の調査では、実見できた扇面のほか、『中村芳中画集』で紹介されているもの、他の図版で紹介されたものなど合計312面を対象とし、落款・印章やモティーフなどを比較分析することで、芳中の扇面画の分類を行うことを目的とした。現存数も大変多いため、正確に把握できたとは言い難く、調査漏れもあろうが、一定量を見ることにより、芳中扇面画の整理を行うこととする。扇面画の分類芳中の扇面は、屏風に貼られたものが多い。2曲や6曲などの屏風には6面や12面、24面などが規則的に貼られたり、散らして貼られたものもある。後世の仕立てと思われるが、基本的には屏風に貼られる各扇面は、ほぼ同サイズ、同じような描写によって統一が図られており(注5)、それらが一括のものとして制作されたことをうかがわせる。中にはひとつの屏風の中で同じ主題が2面以上収められるパターンもあるが(注6)、屏風に貼られた扇面をひとつのまとまりとして見ることはできよう。その他、1面ずつ軸装や額装になったものも存在するが、もとは複数枚をセットとして描いたものであった可能性が高い。セットがばらされ、扱いやすい軸や額の体裁にされているのであろう。― 353 ― 中村芳中の扇面画の調査研究

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