鹿島美術研究 年報第29号別冊(2012)
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今回調査の対象とした扇面画を試みに9つに分類してみた〔表1〕。分類のポイントは、主に描写の特徴、落款・印章、モティーフの扱い方、サイズに置いているが、例えばAとBには似た部分もあり、また同じくBとCといった具合に分類の境界は明確ではない。また同じグループ内でもそれぞれを見比べると、細かい部分ではやはり違いが認められるため、結果的には大きな分類として提示することとした。手順としては、まず屏風単位のまとまりで描写などの特徴から分類を行い、軸装等の単品をそこへ当て嵌める形で進めた。従って同じ屏風に貼られている扇面は、明らかに異なる場合を除いて同じグループに含めている。以下グループそれぞれの特徴をあげてみる。A:たらし込みが最も顕著に表れている。「芳中画之」に印文不明朱文方印または「芳」朱文円印を持つ。落款も含め水気の多い透明感のある墨を用い、全体におおらかな風情を持つ。画面いっぱいにモティーフを配置するものが多い。B:モティーフはAよりやや華奢に収まるが、蔓や茎、葉に動きを持たせ、曲線的な構成でしなやかさを表出したものもある。たらし込みも葉や幹の部分に積極的に用いている。「芳中画」または「芳中画之」、印文不明朱文方印または「芳」朱文円印を持つ(円印が他のグループより多い)。C:輪郭線がAよりは濃く、比較的しっかり賦彩されている。たらし込みもおとなしい印象。「芳中画」または「芳中画之」、印文不明朱文方印または「芳」朱文円印を持つ。「画之」がA・Bよりは小さく書かれる。D:「芳中冩之」に印文不明朱文方印または「芳」朱文円印。「方」の「−」部分、始点の打ち込みと終点の反りが目立つ。たらし込みの具合は作品によって多少差があるが、伸びやかな描写も見られる。現存作品には、このタイプに分類されるものも多い。E:「芳中」・「芳中画」・「芳中画之」・「芳中畫之」・「芳中冩之」に印文不明朱文方印。「芳」の字が特徴的である。葉の部分に金泥で葉脈をはっきりと入れているものもある。モティーフはやや小さく扱い、彩色も明確である。F:「芳中画」または「芳中画之」に印文不明朱文方印。「画」の字が他のグループとは異なる。主題の草花の名が特定できないものも多く、他のグループにはあまりないモティーフがみられることが特徴。輪郭線は太く、形体の簡略化が目立ち、葉部分のたらし込みがやや単調。G:「芳中」または「芳中画」・「芳中画之」に印文不明朱文方印。太い輪郭線を用いており、小ぶりな扇面でモティーフの扱いも素朴な印象を受けるが、墨の使い方や― 354 ―

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