H:「芳中」・「芳中画之」ほか、印文不明朱文方印、印文不明朱文長方印、「芳」朱文円印。署名が細くかつ薄いため、落款の印象がやや弱い。たらし込みは未熟で、硬い印象。金泥で弧を描いた地を持つものもある。I:「芳中」・「芳中畫之」・「芳中冩之」など。印文不明朱文方印のほか、「芳中」朱文長方印など。いわゆる光琳風ではない作品にみられ、俳画などたらし込みを用いていないものに多い。署名の墨線は濃く、細い。平均的なサイズは、Aは扇面の幅(上弦)が56cm前後、B・Cは60cmを超える。D・E・F・Hは、ばらつきがあり53〜60cm前後、Gは41cmと小さめである。扇子の形や扇子であった折目を持つものはあまりない。また扇子に仕立てられる扇面よりも幅が短めで、縦(天地)と幅の比率が小さいものが多いことから、これらは扇子にするためではなく、屏風などに貼られる前提で描かれたものであると解釈できる。横に長く弧を描いていく扇子の画面よりも丸味をもった画面となるため、単一のモティーフでも余白があまり生じず、大振りな印象をより強くもたらしている。彩色など丁寧な描写を見せる。描写について芳中の特徴を示す語としてよく用いられる「たらし込み」は、扇面画にも多くみられる。むしろ扇面画の印象から、たらし込みを多用する芳中像が形成されたともいえるだろう。扇面によってその用い方には差があり、幹や葉の部分には緑青や群青、金泥によるたらし込みが見られ、それぞれの滲みが独特の味わいとなっている。時には群青が斑点状に注されていたり、金泥が規則的に入れられたものもあり、たらし込みが効果的に用いられていないものも見受けられる。全体的な数としては、Aが60面近くあるが、Aのタイプは描写がかなり特徴的であるため、それ以外のグループとの差異が目立つ。モティーフが大きく描かれ、特にたらし込みが大胆に使われ、輪郭線も太く、淡い墨による滲みが独特のおおらかさを生み出している。これまでAのタイプに注目が集まり、芳中の特質として盛んに取り上げられ、評価されてきた。芳中らしさが出ているという解釈は、従来どおりで問題はないのだが、A以外の作品をどのように捉えるかが芳中画の把握には欠かせない。また、今回のグループ分けには輪郭線についても注目した。葉や茎、幹などは輪郭をとらないいわゆる没骨で示されるが、花の形や人物の外形は墨で輪郭を取り、その中を彩色している場合が多い。この線が太くなめらかなものがAやBには多いが、中には何度も筆を止めつつ輪郭を取ったような、たどたどしい筆跡が見られたり、線が― 355 ―
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