鹿島美術研究 年報第29号別冊(2012)
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研 究 者:日本女子大学 人間社会学部 助教  岡 田  梓はじめに北陸を拠点として制作活動を行ったと考えられる喜多川相説は、俵屋宗達およびその工房に連なる画家であると考えられるが、人物に関する一次資料を欠くため、相説について単独で論じたものは少ない。相説の落款を持つ作品が比較的多く伝存しており、押絵貼屏風の作品などを中心に、いくつかの作品紹介が散見されるものの、これまでの認知度・評価ともにあまり高いとは言えない。このように非常におぼつかない状況に置かれている相説研究ではあるが、定型化がみられる宗達派草花図の中においてはその個性は明確で、作品の中では根津美術館蔵「四季草花図屏風」(六曲一双、紙本著色)(番号20)や、石川県立美術館蔵「秋草図屏風」(六曲一双、紙本著色、石川県指定文化財)(番号17〔図1〕)が注目される。こうした相説の作品を手掛かりとし、宗達派草花図を検証することにより、宗達工房および宗達派の地方での活動とその意義を解明する一助としたい。秋草図屏風について構図について落款を外側に並べてみるとき、右隻1扇のススキやフヨウからキク、第6扇のクズまでは奥へと遠ざかっていくように見え、第4扇のハケイトウから第6扇のシュウカイドウまでが手前というように、前後2列に分かれている。左隻も同様に前後の草叢に分かれているが、右隻とは対照を成すように後列は1扇が一番小さく奥まって描か2007年度に科研費による調査の折、所蔵館である石川県立美術館のご高配により、私はこの喜多川相説筆「秋草図屏風」を熟覧調査する機会に恵まれた。この作品のほかにも押絵貼屏風の作品など数点の相説作品を熟覧する機会を得たが、この作品は相説の作品の中でも特異な印象を受けた。それは主に、①押絵貼屏風が多い中で六曲一双の一続きの大画面であること②絵の具の色彩が多用され鮮やかな発色であること③印章がほかの作品とは異なる「宗雪」朱白文方印を用いていること。という理由が想定される。この作品の特徴を抽出し、宗達派草花図制作における相説および「秋草図屏風」の考察を試みたい。― 385 ― 宗達派草花図の展開に関する研究─喜多川相説筆「秋草図屏風」を基軸として─

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