10)。このような状況から、「宗雪」朱白文方印や「宗説」朱文円印は相説の周辺で新たに作られたオリジナルの印であり、俵屋の商標でもある「伊年」の印を併用することで、宗達、宗雪の後継者であることを示したものと考えられる。つまり「伊年」という印章が、ほかの印章より高位に位置づけられていたと考えられるのである。署名を伴わない作品についてであるが、個体差があるので一概には述べ難いが、総じて草花の表現が固いか稚拙であるものが目立つ。構図も単調なもの、余白を持て余して平面的に陥っているものが少なくなく、「宗雪」朱白文方印や「宗説」朱文円印が相説以降の使用に限られており、また相説の工房作品であると考えられる。「秋草図屏風」(石川県立美術館・番号20)では、「宗雪」朱白文方印により俵屋宗雪の後継者であることを示し、「伊年」朱文円印でも俵屋の後継者であることを示しており、署名では法橋となっていることや、余白を大きく残す意識的な構図が見られないことから、この作品は相説が法橋叙任後間もなく、宗雪そして俵屋の後継者としてアピールしていく時期の大画面への挑戦段階の作品ではなかったかと考えられる。おわりに「伊年」朱文円印を押した草花図と別表に挙げた作品を比較してみると、「伊年」印草花図ではほとんど描かれなかった画題として、ブドウやユウガオなどがあり、またマメやアサガオが支柱に絡みつく様子なども描かれており(注11)、蔓性の植物が積極的に採用されていることも特徴として挙げられる。そして、植物以外では数は多くはないが、ウサギ、鳥類が草花と取り合わせて描かれるものがあり、ウサギはハギと組み合わされており(注12)、宗雪の「萩兎図屏風」(六曲一隻・石川県立美術館)との影響関係が示唆される。押絵貼屏風では、サクラやウメ、マツなどの樹木も描かれる。これらは極めて一般的な馴染みのある樹木で、季節感を表出するための採用であると考えられ、また、こうした作品にはしばしば土坡が描かれていることも特徴である(注13)。そして、きわめて稀な作例として達磨(番号13)、観音(番号14)、地蔵(番号25)があり、草花図以外の作品も制作していたことがわかる貴重な作品で、作品探索も含めて今後の研究課題のひとつでもある。これらの所蔵者および旧所蔵者には北陸地方の寺院、旧家などが含まれ、この地域での制作活動がある程度定着していたことを示唆している。同時に金地の「伊年」印草花図との関係、京都の工房の動向なども非常に混迷している。相説についての史料の少なさは改めて痛感されるが、相説は法橋に叙任されている― 391 ―
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