2 .《サンクトペテルブルクの二連画》(サンクトペテルブルク、エルミタージュ美術館)章学的右)の「聖三位一体」、右パネル(紋章学的左)の「謙譲の聖母」から構成され、その小型の形状から個人的祈念のために用いられていたと推察されている(注11)。エルミタージュ美術館による科学的調査によれば、17世紀頃の修復において改変が行われていた。しかしその一方で、支持体に現存する蝶番様の跡等から、エルミタージュの作例には基本的に15世紀のオリジナルの二連画の構図が留められていることが分かった。この調査報告は現在に至るまで研究者の間で一定の支持を得ている(注12)。マーゴ・ピエターティス」と結びつく。すなわち、提示的な図像(Repräsentationsbild)と、物語画(Historienbild)の両者の要素を併せ持ち、観者に共感を求める「悲しみの人」〔図5〕の図像表現である「イマーゴ・ピエターティス」に、「聖三位一体」図像が融合された。図式的・教義的図像としての「聖三位一体」が、観者の共感を要請する祈念像(Andachtsbild)になったのである(注9)。カンパンの「聖三位一体」においては、父なる神が、十字架から降ろされ力なく前方に傾いだ死せるキリストを抱き、キリスト像の左肩の上には聖霊の鳩がとまっている。注目すべきは、キリストが、死せると同時に生ける状態として、右手で自らの脇腹の傷を指し示す表現である。つまりここでは、「十字架降架」等の物語要素が混入され、無生命性を暗示すると同時に生命性も暗示するキリストが描写されているという点で、新たな「聖三位一体」が形成されているのである。さらにカンパンの「聖三位一体」では、全身像のキリストと父なる神が同一の大きさで捉えられ、「聖三位一体」が視覚的現実に即して描かれている。観者の感情移入を促す祈念像としてのカンパンの「聖三位一体」は、ネーデルラントを中心とした北方で広く流布することとなった(注10)。以下では、革新的なカンパンの「聖三位一体」を、二連画、祭壇画の翼扉外面、祭壇画中央パネルという図像形式から再検討することによって、カンパンの三点の「聖三位一体」について考察する。まずは、オリジナルの図像的関連が残されていると考えらえる、エルミタージュの作例から見ていこう。エルミタージュの作例〔図3〕は、左パネル(紋しかしながら、二連画の基礎的な研究を行ったケルマーが指摘するように、ビザンティン美術を経てトレチェント美術を下ると、開かれた二連画の二つの内側パネルには、聖母子等で表されるキリストの受肉に、「磔刑」や「悲しみの人」等で表されるキリストの受難が対置されることで、受肉に始まり受難で終わる聖史が表現された。■■■■― 407 ―■■■■
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