の彩色表現の神聖性を高めることになる(注18)。したがって、ベルティングが指摘するように、日常に見られるヴィジョンとしてのグリザイユ画の表現は、祭壇画が開かれた時に現れる聖なるヴィジョンの導入部として機能していたと捉えられるだろう(注19)。一方で、フランクフルトの作例は灰色を基調としたグリザイユ画によって、トロンプ・ルイユの性格を帯びている。壁龕に立つ立像としての父なる神とキリストの右足は台座から垂れ下がり、さらに台座に刻まれた「SANCTA TRI[N]ITAS V[N]VSDEVS 聖三位一体 唯一なる神」という銘文(注20)によって、絵画空間と観者のいる現実空間は結びつけられる。壁龕には影が投射されているが、この影はフランクフルトの作例が置かれる空間に実際に投射される影と重ね合せられることで、さらなる偽装されたヴォリュームを生み出す。フランクフルトの作例は、このように現実空間の中に属することで、臨在感を強める効果をもたらした(注21)。以上から見てみれば、彩色画で描かれ、ヴィジョンとして観者の観照的没入を促すエルミタージュの「聖三位一体」像が、フランクフルトの作例においては、彫像として観者のいる現実的な空間にあるように描かれているのである。つまり、フランクフルトの作例では、観者と同じ空間にある彫像として祭壇画内側の導入となる「聖三位一体」像が新しく形成されている、と言えるだろう。フランクフルトの作例の意味と機能は、《エーデルヘーレ祭壇画》(ルーヴェン市立美術館)〔図10〕(注22)に継承されることとなった。4.《聖三位一体》(ルーヴェン市立美術館)ルーヴェンの作例〔図2〕はカンパンの失われた原作の模写と目されている(注23)。1649年頃のルーヴェンの弩組合の記録から、ルーヴェンで聖職者を務めたヘラルト・ファン・バウセル(†1473)によって、1430−1440年頃注文され、ルーヴェンのシント・ピーテル教会、南聖歌隊席側廊の聖三位一体礼拝堂に設置された祭壇画の中央パネルと同定されている(注24)。このことは、やはりカンパンの失われた原作に基づくコピーとされる、コリン・デ・コーテル(1480−1525頃)が描いた《聖三位一体》(パリ、ルーヴル美術館)〔図11〕が三連祭壇画の中央パネルとして描かれていることからも裏付けられる(注25)。なおキリストの肩の上の聖霊としての鳩は原型を留めていない。ルーヴェンの作例は草叢が覗く黒色の抽象的空間が背景である。キリストの受難具を持つ二人の天使とキリストの体を白い布で支える二人の天使が父なる神とキリスト― 409 ―
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