鹿島美術研究 年報第29号別冊(2012)
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していた事実が読み取れる。教育省は、ボッコラーリへの要請の中で、廃止され使われていない聖堂所有の作品からミラノに輸送するべき絵画を選出するようにとしていたが(注11)、実際には、廃止された聖堂の作品と交換することで、未だ使われている聖堂所有の作品も接収対象となったのであろう。4.《サン・ピエトロ・ディ・ムラルト祭壇画》ボッコラーリは第2章の報告書での12枚の絵画(11枚のクリヴェッリ作品とスぺリメント聖堂の《聖アウグスティヌス》)を一端市庁舎へ運んだ後、翌9日にはマテーリカの町へ輸送している。マテーリカには、同町とカメリーノから接収された絵画作品が集められ、8月にミラノへ纏めて送付された。このミラノへの輸送時の送り状は、モデナのボッコラーリ文書に確認することができる〔図5〕。送り状では「木箱Aカメリーノ由来の絵画」として、12枚の絵画が次のように記録されている。1番 金地背景の板絵で、ヴェネツィアのクリヴェッリにより描かれた殉教者聖ピエトロと別の軍人姿の聖人2番 上記と同じくクリヴェッリによる、聖アウグスティヌスと聖ヒエロニムス3番 上記と同じくクリヴェッリによる、聖ペテロと聖ドメニコ4番 上記と同じくクリヴェッリによる、聖母子5番 上記と同じくクリヴェッリによる、十字架上のキリスト場面6番 上記と同じくクリヴェッリによる、聖母子7番 上記と同じくクリヴェッリによる、聖ペテロに鍵を渡す幼子キリストと聖母マリア、何人かの司教聖人達8番 クリヴェッリによる、金地背景に3人の半身像、聖ヤコブと聖ベルナルディーノ、巡礼聖人を伴う細長い小型の絵画9番 上記と同じくクリヴェッリによる、聖アントニウスと聖ヒエロニムス、聖トマスを描いた上記作品と同様のもう一枚小品10番 上述のクリヴェッリによる、キリストの復活を描いた小型の板絵11番 クリヴェッリによる、お告げを受けるマリアを描いた小品12番 上述のクリヴェッリによる、お告げをする天使を描いた同様のもう一枚の― 421 ― (注12、下線は筆者による)

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