このほか、今回の調査所蔵の明らかになった重要な踊衣裳には、玉城秀子(国指定重要無形文化財「琉球舞踊」総合認定保持者、玉城流玉扇会二代目家元)所蔵となる藤村玲子の創作柄、二代目宮城能造(沖縄県指定無形文化財「沖縄伝統舞踊」保持者)の所蔵する名渡山愛順の踊衣裳がある。玉城秀子は、栄喜踊衣裳としては珍しい意匠「鳳凰松雲形藤燕籬菊文様紅型」や、運天一恵による「からし色地牡丹蝶模様紅型」(創作「王女狂乱」に着用)など、特色ある紅型踊衣裳を所蔵。藤村玲子「花色地雲枠牡丹枝垂桜文様紅型」は「天川」に着用。藤村玲子「薄紫地雲枠松藤鶴蛇籠流水菖蒲沢瀉文様紅型」は「諸屯」のために制作した。「綛掛」ほかに用いる藤村の創作柄「白地雲に松竹梅菊牡丹文様紅型踊衣裳」は、紅型資料としても貴重である〔図10〕。二代目宮城能造の所蔵する名渡山愛順の踊衣裳中、紫色地は特に愛順が選んで染めた地色という。注目される愛順「白地松竹梅鶴流水菖蒲文様紅型踊衣裳」〔図11〕は、朱と薄い水色という特色ある配色の組み合わせ、菖蒲の花弁に見られる独特な隈取りがなされ、腰から裾の模様が女子美術大学蔵「黄色地雲に松梅と鶴流水に菖蒲文様紅型衣裳」と同意匠となる。栄喜ら職人系の紅型師よりも日本本土の染織の配色に近い感性があり、伝統的な紅型の配色から離れた愛順の表現が垣間見られる。四 幕1.調査内容本調査を計画した当初、報告者は、沖縄県内の各地域に使用される舞台幕の画題に、ある程度の分類が可能という想定をおこなっていた。しかし、伊是名島、竹富島、小浜島ほか各地域に伝えられる舞台幕を調査していくうち、八重山を中心として紺地に松竹梅鶴亀という明治〜昭和初期の比較的古い舞台幕が残される一方、各地域には、昭和期から制作され始めたと考えられる新しい図柄の舞台幕が多く残ること、例えば小浜島に1969年(昭和44)作となる、能舞台を思わせる松の巨木と梅竹文様、周囲に伝統的な鶴文様を配する幕〔図12〕が使用され続けるなど、つまり、昭和期にかなり自由な図柄の変化がおこった可能性が明らかになった。現在、沖縄の各地域では、能舞台を思わせる松の巨木や絵画のような樹木茂る森の風景、あるいは、歌劇など演劇の影響を受けたと考えられる海を遠景に望む浜辺の風景や実景の図柄など、さまざまな幕が使用される。調査の詳細な記録、および広範囲にのぼる幕の実態をまとめていく作業は今後の課題とし、聞き取り調査により得た幕の実態を記録化することで、これまでまとまった調査研究の行われていない紅型幕の様相を考察する糸口としたい。― 434 ―
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