鹿島美術研究 年報第29号別冊(2012)
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②×○①前景 ○風景 ○他のものは主題が特にはっきりしない。主題がない作品も平穏な情景とそうでないものの二つのグループに分けられ、後者には《蛇に殺される男のいる風景》と《風景─嵐》がある。一口に英雄的風景画と言っても様々なタイプの作品があるわけであるが、敢えて単純化すれば、前景の人物と背景の風景との関係に注目するといくつかの類型に分けられる。平穏な情景を○、悲劇的もしくは嵐の情景を×、さらに中間的な、悲劇もしくは嵐の予兆を△とすると次のようになる。①風景─静穏、ディオゲネスのいる風景、三人の修道僧のいる風景など8点②フォキオンの風景2点、蛇に殺される男のいる風景③風景─嵐、ピュラムスとティスベのいる風景④オルフェウスとエウリュディケのいる風景、ポリュフェモスのいる風景このように、圧倒的に①の類型が多いが、プッサンの英雄的風景画をより特色あるものにしているのは②③④の類型である。本稿では、英雄的風景画の②の類型に属し、その重要度に比して十分な検討がなされてこなかった2点組の《フォキオンの葬送のある風景》〔図1〕(注3)と《フォキオンの遺灰の収集のある風景》〔図2〕(注4)を取り上げる。一見すると、それぞれの作品の前景には主人公の悲劇にまつわる逸話が描かれているのに対し、背景にはそれとは一見無縁な平和な情景が描かれているように見えるのであるが、画面の中でのモティーフの対比、両作品の対比から観者に対してある寓意的な内容が浮かび上がるような「行為遂行性」を持っていることを以下で示してみたい。そこから物語画家プッサンがこの時期に風景画を集中的に制作した背景の一端も明らかになることであろう。1 フォキオン伝連作の概要《フォキオンの葬送のある風景》(以下《葬送》と略、注3)と《フォキオンの遺灰の収集のある風景》(以下《収集》と略、注4)は、フェリビアンによれば、リヨン出身のパリ在住の絹織物商人ジャック・スリジエのために1648年に描かれた作品である。スリジエは1647年にローマを訪れたことが知られており、画家と注文について直③④ ⑤×  △○×  △×― 489 ―

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