期 間:2011年11月26日、27日会 場:日本、日仏会館報 告 者:名古屋大学大学院 文学研究科 教授 木 俣 元 一本国際会議は、「見えないものの形:中世美術における日仏比較の試み」というテーマで、平成23年11月27日㈰、午前10時から午後6時まで日仏会館(東京都渋谷区恵比寿)で開催された。西洋中世美術については、「文字を読めない人々のための聖書」、すなわち聖書の内容を文字ではなくイメージで表現したものという説明をよく見かける。しかし、実際にはこのような説明では捉えきれない多様な機能を中世美術は担っていた。そのひとつが、さまざまな「見えないもの」と人間を媒介するという役割である。このような「見えないもの」の中には、聖俗の権力、共同体の歴史や記憶、神や死者、霊魂などの不可視の存在、夢や幻視といった心的・霊的視覚にかかわる現象、そして象徴の世界が含まれる。大聖堂や教会堂などの建築、祭壇などの設備、そして美術作品といった目に見える媒体が、いかにして「見えないもの」の世界とつながるのか。本国際会議では、このような美術のあり方に関し、フランスから中世美術研究者2名を招き、日本中世美術史研究者2名とフランスで学んだフランス中世美術研究者2名の参加を得て、彼我の中世美術を比較しながら議論を深めることができた。まず、その会議の経過を略述しておきたい。午前10時から、開会の挨拶が三浦篤氏(日仏美術学会事務局長、東京大学)およびクリストフ・マルケ氏(日仏会館フランス事務所所長)によって行われた。その後、本会議の趣旨説明を木俣元一氏(名古屋大学)が担当した。午前の部は、高野禎子氏(清泉女子大学)が司会を担当し、最初の発表者としてフランスから招聘した、フランス中世建築史を専門とするダニー・サンドロン氏(パリ第4大学)が、「ゴシックの大聖堂:モニュメンタルなアレゴリー─パリ、ノートル=ダムを例として(La cathédrale gothique : une allégorie monumentale─le cas de Notre-Dame de Paris)」と題された会議全体の基調をなす体系的な報告を行った。次いで、南フランスを中心とする地域の古代末期・初期中世の祭壇に関して、奈良澤由美氏(プロヴァンス大学)が、「石の記憶:初期中世の祭壇をめぐる再利用の連鎖の問題について(La mémoire des pierres : problèmes du réemploi dans les autels du haut Moyen Age― 510 ―②中世美術における「見えないもの」:日仏比較の試み
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