鹿島美術研究 年報第29号別冊(2012)
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dans le Sud de la France)」と題された報告を行った。さらに、日本中世の絵巻物を専門とする髙岸輝氏(東京工業大学、現職=東京大学)が、「中世絵巻が内包する聖俗の力とそのかたち(Pouvoirs sacrés et profanes et leurs représentations dans les rouleaux àpeintures médiévaux japonais)」と題された報告を行った。昼の休憩を挟んで午後2時から会議が再開された。午後の部は、小池寿子氏(國學院大学)が司会を担当し、日本中世の絵巻物に関する議論をさらに発展させて、伊藤大輔氏(名古屋大学)が、「神仙山水としての「信貴山縁起絵巻」(《Rouleaux deslégendes du Mont Shigi》comme Paysage des Immortels "Shinsen-Sansui")」と題された報告を行った。次いで、13世紀の『ヨハネ黙示録』写本に関して、木俣元一氏(名古屋大学)「中世の写本挿絵における幻視表現と読者/観者のまなざし(Représentationsde la vision dans les manuscrits médiévaux et le regard des lecteurs/spectateurs)」が報告を行った。そして最後の報告者として、フランスから招聘した、中世末期の美術を幅広く研究するフィリップ・ロレンツ氏(パリ第4大学)により、「『私のただひとつの望みに』:禁欲のアンチテーゼとしての《貴婦人と一角獣のタピスリー》("À mon seuldésir" : la tenture de la Dame à la licorne, une antithèse du renoncement)」と題された報告が行われた。その後、休憩を挟み、午後4時30分から高階秀爾氏(大原美術館館長)を司会に迎えて報告者6名が壇上にのぼり会場との意見交換も行いながら全体討議を実施した。閉会の挨拶は、辻佐保子氏(名古屋大学・お茶の水女子大学名誉教授)が担当された。この世界には、もちろん目に見えるものもたくさんあるが、それ以外のさまざまな見えないものが存在しており、我々との関わりを保っていたり、わたしたちに働きかけたりしている。見えないもの」の領域に、死者をはじめとする今ここに不在の人に加えて、空間的に離れた場所、夢や幻(vision)、霊魂や幽霊、天国や地獄、神や天使などの超越的な次元に属しているもの、感情、観念、思想なども含めるとすると、その広がりはかえって「見えるもの」を大きく超えていると言ってもさしつかえないであろう。こうした「見えないもの」の世界と「見えるもの」の世界を結ぶ美術の役割に注目することで、美術の、ひいてはそれを取り扱う人間のきわめて重要な側面を明るみにだすことをめざしたが、そのもくろみは成功したように思われる。その際、「見えないもの」を、美術という目に見える表現の形態にいかに置きかえていくのか、また「見えないもの」がまさに見えないということをいかにして喚起するのかという課題を、芸術家がどのような形で解決するかも興味深い問題として取りあげられた。さ― 511 ―

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