鹿島美術研究 年報第29号別冊(2012)
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会館ホールが満席の状態であった。日本の聴衆にとっても自国の中世美術、とりわけ絵巻物の優品に関して、新たな知見を得たり、認識を深める機会となったばかりでなく、自国の美術の理解を通じて、フランスの中世美術との距離を縮め、親しむ契機ともなったにちがいない。人間像や風景表現などの「見えるもの」ではなく、「見えないもの」を足がかりにしたことにより、日本とフランスの中世美術の表面的なスタイル、技法、主題の違いに惑わされることなく、両者に本質的に共通する世界のとらえ方や、表現のメカニズムを浮かびあがらせることができた。日本の中世美術を通してフランスの中世美術を理解する、あるいはその逆のアプローチを取ることが、思った以上に有効な方法であることが、今回のシンポジウムで明らかになったのではないだろうか。辻佐保子氏による閉会の挨拶でいみじくも述べられていたように、本会議において美術に関する日仏の国際的な交流をなしえたのも、多くの先人たちの継続的な営みを通じて蓄積されてきた学術交流における伝統の厚みや力に負うところがきわめて大きいことにあらためて気づかされた。本会議でなされたような試みも一回限りで終わらずに今後も継続して発展させることが何よりも重要であることを最後に確認しておく。期   間:2012年4月12日〜19日(8日間)招致研究者:フランス共和国、ルーヴル美術館 学芸員      ギヨーム・ファルー(Guillaume Faroult)報 告 者:国立西洋美術館 主任研究員  陳 岡 めぐみ今回の研究者招致は、2012年3−5月に国立西洋美術館で開催された「ユベール・ロベール―時間の庭」展に伴う国際シンポジウム「時の作用と美学」へのパネリスト招致を目的とする。古代への新たな関心と愛好が高まった18世紀後半を生きたフランスの風景画家、建築画家ユベール・ロベールは、古代遺跡やモニュメント、庭園などを主たるモティーフ源としつつ、絵画空間や庭園デザインにおいて数々の空想的な風景や建築物を描き― 513 ―⑵ 外国人研究者招致① 「時の作用と美学」

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