だした。本シンポジウムは、「廃墟のロベール」とも綽名されるこの画家の芸術を国内ではじめて紹介するこの機会に、その時代背景や今日的意義を幅広いアプローチで探ることを目指して、国立西洋美術館と東京日仏学院の協力の下に企画された。会場を変えて2日間にわたって開催され、日仏の研究者、芸術家、建築家を集め、「時」が人の意識や事物にもたらす作用とこれをめぐる美学をめぐって多角的に論じられることとなった。今回の招致者のうち、ジョベール氏の急な来日中止により、当日は、発表内容のテキストの配布のみとはいえ、両者ともに重要な論点を提起し、パネリスト、そして会場の出席者のあいだに問題の幅広さを示し、全体討論の展開に貢献することができたと考える。国立西洋美術館で開催された初日は、青柳正規館長による開会の辞で始まり、近世における古代遺物の考古学的発掘の状況を示しつつ、シンポジウムへの導入がおこなわれた。初日は、忘却と再生の連続である芸術の歴史をひも解き、ルネサンスから20世紀初頭まで、「時の作用」について、“歴史的”視点から考察する発表にあてられた。まず、高階秀爾氏(大原美術館館長)による基調講演「時間・廃墟・芸術」では、古代からルネサンス、19世紀にいたる多数の作品を通じて、芸術における「直線的時間」と「循環的時間」の表現がたどられた。続いて個別の発表に移り、最初に、小佐野重利氏(東京大学教授)の「絵画と時間、というよりむしろ絵画の中の時間─15、16世紀における歴史認識をめぐって」で、ルネサンス期の絵画における歴史認識、そして絵画と彫刻のパラゴーネについて、同時代のテキストと絵画作品を用いて考察がなされた。ギヨーム・ファルー氏の発表はこの後に続いたもので、氏が所属するルーヴル美術館が2011年に購入したばかりの18世紀の英国画家ギャヴィン・ハミルトンの《ヘレネをパリスに差し出すウェヌス》の制作状況をめぐる詳細な考察がおこなわれた。概要を以下に記す。18世紀後半のローマで活躍したハミルトンは、画家であるとともに考古学者、古代遺物のディーラーでもある。18世紀後半の絵画を席巻する古代回帰の流れにおいて重要な芸術家であるが、作品数は少なく、きわめて貴重である。近年発見されたところのルーヴル作品は、1784年にヴィラ・ボルゲーゼのカジノの「パリスとヘレネの部屋」の装飾画(現在、ローマ市美術館所蔵)に極めて近い構図を持つ。主題はホメロスの『イリアス』に取材するが、珍しい場面が選ばれている。ハミルトンがこの主題を最初に描いたのは1750年代にさかのぼり、当時発掘されたばかりの同場面をあらわした古代レリーフや、ケイリュス伯爵やヴィンケルマンの著作の影響下に― 514 ―
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