鹿島美術研究 年報第29号別冊(2012)
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ヴル美術館のキュレーターとして、当時、ルーヴル宮内で絵画管理に携わっていたユベール・ロベールとミュージアムをめぐる問題について、そしてイタリア・フランス間の作品交換プロジェクトへの関わりなどについての貴重な発言をおこなった。また、この討論では、ジョベール氏のテーマと関わりの深い、過去の遺産の扱いや建築復元、廃墟と遺跡をめぐる問題系などの論点も提起され、時の作用をめぐって、多角的に論じ合うことができた。2日目は、「時の美学と痕跡」をめぐって、20世紀から現代まで、建築から現代アートの祭典まで、さまざまなメディアにまたがる現象を考察する発表がおこなわれた。最初に、ミュリエル・ラディック氏によって、時間の痕跡をめぐる日仏の美学の相違に対する導入的発表がおこなわれた。これに、稲賀繁美氏(国際日本文化センター教授)、北川フラム氏(アートディレクター)、宇野邦一氏(立教大学教授)によって、時間と空間をめぐるセッションが続き、その後、五十嵐太郎氏(東北大学准教授)、隈健吾氏(建築家)、パトリック・ブラン氏(アーティスト)によって、「建築と自然」をめぐるセッションがおこなわれた。また、最後に、パノス・マントシアラス氏(フランス文化省・建築・都市・景観研究局局長)によって、絵画から建築、古代から現代、さらに西洋から東洋まで多岐にわたる2日間のシンポジウムの論点が振り返られた後、ジャン=ジャック・ガルニエ氏(東京日仏学院院長)の閉会の辞によって締めくくられた。なお、シンポジウムにおける討論以外にも、ファルー氏とパネラー、会場参加者のあいだでは、個別に積極的な意見交換がおこなわれた。特に、19世紀美術研究者の三浦篤氏とのあいだでは、マネやルグロら、ポスト・レアリスム世代の画家たちについて、そして、ファルー氏が2002年にルーヴル美術館で企画した展覧会で取り上げられた19世紀を代表するフランス人コレクター、ラ・カーズをめぐって活発な意見交換がおこなわれた。フラゴナールをはじめとする18世紀絵画やフランス・ハルスなどの17世紀オランダ絵画を中心とする医師ラ・カーズのコレクションは、時代の趣味を先取りするものであったが、第二帝政期にルーヴル美術館へ寄贈され、19世紀の絵画趣味の変遷史に足跡を残したことで知られる。近代絵画史における重要な局面を担った画家やコレクターらをめぐって、第一線で活躍する日仏の研究者のあいだで討議ができたことは大変意義深いことと考える。さらに、2016年にパリとワシントンで開催予定のユベール・ロベールの大規模な回顧展を準備中のファルー氏は、小佐野氏が発表で論究した「時間性」の問題から多大なインスピレーションを受けたとのことである。今回の招致は、シンポジウムを通じて、また、滞在中の研究者同士の意見交換を通じ― 516 ―

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