鹿島美術研究 年報第29号別冊(2012)
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て、日本の研究水準の高さを国外の研究者に示すとともに、相互交流によって、今後の研究の進展に大いに貢献するはずである。同時に、ルーヴル美術館で近世イギリス絵画を主な担当領域とするファルー氏は、リチャード・ウィルソンをはじめとする国立西洋美術館の所蔵イギリス絵画の研究調査をおこなった。これを通じて、氏と館スタッフ側で貴重な意見交換、情報交換をおこなうことができたことは、当館としても有意義であった。あわせて、今回のファルー氏の来日によって、近年のルーヴル美術館における収集作品、収集方針、購入プロセスなど、美術館の作品収集をめぐるきわめて実践的な情報を得ることができたことも、当館にとっては貴重な機会であったと考える。今回のロベール展を企画した陳岡自身、ファルー氏と、ユベール・ロベールをめぐる重要な情報交換をおこなうことができた。本格的なカタログ・レゾネは現在編纂中という状況のため、この画家に対する情報はまだ体系化されておらず、個別の作品や資料の所在はきわめて貴重な情報である。今回のファルー氏の滞在を通じて得た知識やネットワークは、西洋美術館が所蔵するロベール作品の今後の調査研究にも、大いに役立つことが期待される。今回のシンポジウムはいずれ館内で報告書としてまとめ、国内外の諸機関との資料交換を通じて、その成果を発信する予定である。期   間:2012年5月24日〜27日(4日間)招致研究者:フランス共和国、ラミ・バザゾ(Rami BAZAZO)報 告 者:東京大学大学院 人文社会系研究科 教授  佐 藤 康 宏招致研究者ラミ・バザゾ氏は、5月24日から27日まで来日し、国際東方学者会議において「鳥居清長の黄表紙における透視図法と歌川豊春との関係をめぐって」という演題で発表した。この内容を以下に全文掲載する。18世紀後半に鳥居清長が創出した絵画様式には、八頭身の美人群像や大判読絵を巧みに活かした大画面など、様々な趣向が凝らされている。これらの趣向のうち、しばしば注目されるのは、何といっても驚嘆に値する西洋画法の印象的な受容であろう。清長は同世代の絵師と同様に、波のように寄せてきた斬新なヴィジョンに心を奪われ、研鑽期にそれを受容するのに腐心したのである。彼が手本にした絵師としてしば― 517 ―② 「鳥居清長の黄表紙における透視図法と歌川豊春との関係をめぐって」

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