鹿島美術研究 年報第29号別冊(2012)
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美術理論を講じ、詩と絵画の関係についても、詩画比較論を咀嚼した上で議論している。彼は詩と絵画の密接な関係について次のように述べている。絵画と詩は同じ源泉からそれぞれ想像力によって流れ出し、[中略]まるで二枚の鏡のように互いの美を向上させ、反映し、高めるような方法で様々な流れを作り出す。(注7)姉妹芸術である詩と絵画は完全に符合する。詩の力を借りなければ優れた画家を生むことはできない。(注8)詩と絵画の問題は、彼の画家としての実践においても重要な役割を果たした。展覧会出品用の油彩作品はもちろん、版画として出版したトポグラフィーも、「詩の力を借り」ることで様々な展開を見せていたのである。先行研究でも指摘されてきた通り(注9)、ターナーの風景画は詩の要素を取り込むことで、風景の単純な再現にとどまらず、荘重な絵画作品へと高められている。ターナーが詩の特徴として特に重視したのが連想の機能である。スケッチブックの以下の書き込みからは、ターナーが詩には様々な観念が結合した連想が備わっていて、それが鑑賞者の精神を刺激して想像力を豊かにすると認識していたことが分かる。画家の美は明確に示すことができる。一方で、詩人の美は想像上のものである。詩人の美はもっぱら詩人の連想に関係し、連想はもっぱら想像力に帰すことができるからである。(注10)詩は視覚的な効果を示す絵画とは異なり、想像力を刺激するものであると捉えている。詩のこの特徴については、別のスケッチブックに、ターナー自身が典拠(注11)を示して引用した一文にも言及されている。詩の主な目的は人間の性格と情念を詳細な輪郭で描き、自然の外観に色を付け、それらの効果を我々の想像力に訴えるように描写することである。(注12)ターナーが風景画に適用したのは、この連想という詩の特性であった。連想を備え― 59 ―

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