鹿島美術研究 年報第30号別冊(2013)
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た。データベースには、1400年代および1500年代に、フィレンツェ派、ヴェネツィア派の画家が制作した祭壇画を収集した(注4)。本来、祭壇を装飾するものには、絵画だけではなく、彫刻作品も含めるべきであるが、明晰な分析結果を得るため、今回は絵画作品のみを対象とした。また祭壇画の主題については、narrativeとnon-narrativeに二分することができるが、ここでは祭壇画の形式分析をできるだけ同条件の下に行うため、non-narrativeの「聖母子と聖人たち」を表した祭壇画のみを分析対象とした(注5)。データには、制作者、制作年、祭壇画名等の基本情報の他、独自の分析項目として、次の項目を作品画像観察により、採録した。 祭壇画分析項目 祭壇画の種類:多翼祭壇画/パーラ形式 画面形式:多翼/縦長/横長/正方形 背景:金地/風景/開かれた建築/閉ざされた建築/その他 玉座の有無:有/無/空中 玉座の足下に置かれたモティーフ:なし/奏楽の天使/天使/花びん  /掛け布またはじゅうたん/寄進者/その他 玉座の高さその結果、フィレンツェ派69点、ヴェネツィア派62点、計131点の祭壇画が分析対象となり、データが採集された。2.分析結果2.1 祭壇画の種類採集した祭壇画は、1400年代および1500年代に制作されたものという条件であったため、フィレンツェ、ヴェネツィア共に8割程度が単一画面のパーラ形式であった。これは、先行研究に指摘される1430年代以降の「多翼祭壇画からパーラへ」という祭壇画形式の変遷を確認する結果であった。興味深いのは、多翼祭壇画制作数の年代分析である〔図1〕。採録されたデータ内でという留保はあるものの、フィレンツェにおいては、1400年代半ばまでには、多翼祭壇画の制作はきわめて稀になっているのに対し、ヴェネツィアにおいては1500年代を過ぎても未だ、多翼祭壇画はその命脈を保っている様相が観察できる。ヴェネツィアにおける芸術の保守的傾向は、これまでにも指摘されてきたが(注6)、本結果はそれを裏付けるものとなった。― 147 ―

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