鹿島美術研究 年報第30号別冊(2013)
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メージについて研 究 者:お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科 博士後期課程日系アメリカ人の彫刻家イサム・ノグチ(1904−1988)は、《スライド・マントラ》(1986)に代表されるパブリック・アートを多数制作したことで知られるが、晩年のこの作品が作られるよりも半世紀程前、初めて公の場に設置されたノグチのレリーフ《ニュース》(1938−1940)〔図1〕に関する研究には、ほとんど手が付けられていない。その原因として、まずノグチが抽象表現主義世代の芸術家と見做されているため、第2次世界大戦後の抽象彫刻に比べ、大戦間期の作品に関しては相対的に研究が遅れていることが挙げられる。加えて、1930年代を扱う数少ない先行研究でも、取り上げられるのは《死》(1934)や《メキシコの歴史》(1935−1936)であり、これらの作例と比べ「社会派」としての性格の弱さが指摘される本作は(注1)、ノグチ研究史において顧みられることが稀であった。このように本作に関する研究が進まない背景には、アメリカの20世紀美術史が、第2次大戦以前のレアリズムと大戦後の抽象表現主義に二分されてきたことがあると思われる(注2)。言い換えれば、本作はアメリカの20世紀美術の語りを支えるこの2つの枠組みの狭間で看過されてきたと言えるだろう。しかし近年、その枠組みには集約し得ない多様な芸術のあり方を、個々に検証し直す必要性が唱えられている(注3)。そこで本稿では、1930年代末に制作されたこの《ニュース》という作例を当時の社会文化的な文脈に照らして分析することで、未だ研究の少ない大戦間期のノグチの作品分析に取り組み、レアリズムと抽象表現主義に二分されたアメリカの20世紀美術史の狭間の動向に改めて目を向けてみたい。1.作品概観建設の進むロックフェラー・センターにオフィスを設置したAP通信は、1938年4月、正面玄関を飾るためのレリーフを公募した。「ニュース」というテーマを唯一の条件とした募集に対し(注4)、188点の作品が寄せられ、国立彫刻家協会会長ジョン・グレゴリー、WPAのフェデラル・アート・プロジェクト責任者ホルガー・カヒル、AP通信のロイド・ストラットン、建築家のウォーレス・ハリソンとアンドリュー・ラインハートがこれを審査した(注5)。― 204 ―内 山 尚 子⑲ イサム・ノグチによるAP通信のレリーフ《ニュース》におけるジャーナリストのイ

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