ノグチは応募した2作品のうちの1点でこのコンペティションに優勝し、1000ドルの賞金を得るとともに、正面玄関上に設置する作品の鋳造を依頼された。縦6.1、横5.2メートルという大型のレリーフは、当初ブロンズで鋳造される予定であったが、ノグチはステンレス・スティールを用いることを提案した(注6)。ステンレス・スティールは、1913年に開発された新しい素材で、伝統的な彫刻の素材であるブロンズよりも安価に作品を仕上げることを可能にした。ボストンのジェネラル・アロイズ・カンパニーの協力を得、ノグチ自ら鋳造作業に携わった《ニュース》は、1940年の4月29日除幕式を迎えた(注7)。完成作には、左上から右下に走る4本の線を背景に、5人の人物の上半身が、それぞれジャーナリストの取材道具を手に描かれる。右下の人物から時計回りに、電話の受話器、メモパッド、小型カメラ、ワイヤフォト、テレタイプを操作する。メモパッド以外は、いずれも当時最新の技術を用いた取材機器であり、AP通信はこれらをいち早く導入した「早く正確な」報道で知られていた(注8)。また、テレタイプを扱う人物は、アイシェイドを被る姿で表わされる。コンペティションに提出された模型〔図2〕と完成作を比較すると、3つの変更点を指摘できる。まず、画面右下の人物像(報道の対象)と、右上部の十字形が取り去られている。また、凹面に彫刻されていた背景のラインは5本から4本の凸面に変更されている。加えて、受話器を持つ人物の右の前腕やテレタイプを操作する人物の肩周りに顕著なように、模型に比べて完成作では人物の身体がより筋肉質に表わされている。作品に寄せられた批評において、本作は概ね好評を得ている。例えば、除幕式を報じた『ニューヨーク・タイムズ』には、全体主義に抗する「報道と知性の自由の象徴」として、次のように本作が評価されたことが記されている。ロックフェラー氏は、今やそれを享受できる国がほとんど残っていない知性の自由がこの彫刻に表現されていることにアメリカ市民が気づくよう期待すると述べた。「この素晴らしいニュース・エージェンシーの表玄関の上に、報道の自由の象徴として、このレリーフがいつまでも掲げられ続けることを願う。不幸にも、今日の世界において、ここ(訳注:アメリカ)は貴重な自由がまだ生きながらえている数少ない国の一つである。全体主義のイデオロギーの欺瞞的な知的帝国主義に対して、我々は守りを固めねばならない。それが共産主義であろうともナチズムであろうとも、そうしたイデオロギーは既に彼らの国の国民に知的・倫理的― 205 ―
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