鹿島美術研究 年報第30号別冊(2013)
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る。従って、女性を中心とする擬人像を用いて、静的に「ニュース」というテーマに取り組んだフレリ以下の作例が、大戦間期の古典回帰の特徴を示すとすれば、ノグチとタッシェルは、報道に直接関する事物を配することで、同じテーマを技術の発達に対する称賛に結び付けている(注13)。換言すれば、2位以上の作例は様式及びテーマの扱い方において「現代性」を示すものであり、その点が評価されたと考えられる。続いて、ノグチとタッシェルの図案を比較する。まず構図の点で、タッシェルの図案では、中心に向かって降下する複数の軸に沿って多数の人物像がオーヴァーオールに配されるのに対し、ノグチのものでは、対角線を軸に画面がより簡潔にまとめられている。ノグチのレリーフでは、背景の線と左側の3人の視線の作る左上から右下のラインと、受話器を持つ人物の左腕とテレタイプから排出される用紙、右上の2人の視線の作る左下から右上に向かうラインが、画面の対角線を構成する。これにより、水平垂直の軸を基本とするアカデミックなレリーフと比較すればダイナミックな動きがあるものの、タッシェルの散漫な構図に比べて集約された本作の構図は、見る者の眼差しを確実に中心的なモティーフに導いてゆく。加えて、タッシェルの図案では同じ機材を手にする人物のイメージが反復するのに対し、ノグチの場合、それぞれひとりずつに限定されている。さらにタッシェルの図案では収集と発信から消費という「ニュース」を巡る全行程が表わされるのに対し、ノグチの場合示されるのは、ジャーナリスト、つまり「ニュース」を収集発信する側のみに限られている。従って、同じように現代の報道を主題としながらも、ノグチの作品において、それはジャーナリストの「主体性」を強調するモティーフによって図案化されており、その点が評価されたと考えられる。このことはさらに、ノグチのレリーフの5人の人物がいずれも職業のアトリビュート以外何も身に付けていないことと、鋳造の過程で図像がジャーナリストのみに限定されたことにより強調されたと言えるだろう。3.図像の着想源と身体表現に見る「主体性」の特徴ノグチが作品制作に際し写真を参照していたことは既に先行研究で指摘されており(注14)、とりわけ1930年代には定期刊行物に掲載された写真をイメージ・ソースとして用いていたことが分かっている(注15)。これを踏まえ、本稿では新たに、作品の募集が掲載され、ノグチが目にしていたと推察される『ロックフェラー・センター・マガジン』の記事が本作に着想を与えた可能性を指摘する。― 207 ―

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