『ロックフェラー・センター・マガジン』は1938年に刊行された総合誌で、文化情報や同センター内の施設等を、多数の図版を伴って紹介するものである。ノグチがデザインの過程で参照したと思われるのは、1938年の3月号中の「報道される世界」と題された記事で、新しくオフィスを同センターに構えるAP通信が、「早く正確な」報道を実現する過程を3ページにわたって写真付きで解説するものである(注16)。この記事の中でAP通信は、最新の機材を活用して効率よく取材を行い、広大なネットワークを通じて迅速にニュースを発信する世界有数のニュース・エージェンシーとして紹介される。拡大されたテレタイプの図像が共通することから、タッシェルもこの記事を参照した可能性は否めないが、前述の通り、彼の図案にはこの記事では言及されないニュースの消費の場面が含まれるため、この記事のみに彼のイメージ・ソースを求めることは難しい。一方でノグチの図案には、この記事の写真に取り上げられるカメラ〔図7〕、電話〔図8〕、テレタイプ〔図9〕、アイシェイド〔図10〕、ワイヤフォト〔図11〕が、ジャーナリストのアトリビュートとして全て取り込まれている。従って、前節で他作例との比較から示した本作の特徴を顧みれば、「主体性」を体現する「現代」のジャーナリストの姿を報じるこの記事が、作品制作に際しての主な参照項であった可能性は高いと考えられる。しかし、この記事の写真とノグチのレリーフとを比較し、図案化の過程で、ジャーナリストたちから衣服が取り去られたことは注目すべきである。これによって、5人のジャーナリストは、それぞれが手にする職業のアトリビュートと彼らの身体性とを強調する。ノグチは1930年代に数多くの裸体の人物像を制作している。例えば、先述の《死》〔図12〕や《メキシコの歴史》〔図13〕の他、今回ニューヨークのノグチ美術館所蔵の資料を調査したところ、《自由への戦い》(1937)〔図14〕、《Apex Buildingのコンペティションのための彫刻(模型)》(1937)、《War Department Buildingのコンペティションのための彫刻(模型)》(1940−1941)〔図15〕という同時期の作例がいずれも(半)裸体の人物像を中心に構成されたものであることが確認できた。また《メキシコの歴史》までは性別も曖昧に痩身で表されていた人物が、1937年以降の作例では性別を明確にし、特に図像の中心を占める男性像では筋肉質のたくましい体型で表わされるよう変化したことも確認された。このように男性性を強調する身体表象は、アメリカにおいて1920から30年代に盛んに作られた労働者のイメージに共通するものである。労働は、建国以来、アメリカの― 208 ―
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