研 究 者:神戸市立博物館 学芸員 石 沢 俊1.はじめに長崎出身の黄檗僧・海眼浄光(1722〜85)は、上方に初めて南蘋風花鳥画をもたらした画家・鶴亭として、近世絵画史では広く知られている。鮮やかな色彩で生き生きとした花鳥を描いた著色画、大胆な筆遣いが彼の息づかいをも感じさせる水墨画の双方に優品が多く、展覧会でも近年注目を集めている。その一方で、作品の持つ魅力のわりに、落款と印章の組み合わせに基づく作品編年を提示した成澤勝嗣氏の論考、鶴亭の足跡と交友を文献からたどり、落款と作風から時代区分を行った平井啓修氏の論考・発表のほか、研究はいまだ進展途上にあるといえる(注1)。本研究はこれら先行研究に基づきながら、作品と文献の双方から、鶴亭の画業を明らかにすることを試みたものである。今回は、国内に所蔵される鶴亭作品の実地調査に努めた。さらに、論文・書籍・展覧会図録・売立目録などに掲載された作品の確認、そのほか提供を受けた作品情報について整理を行った。その結果、現段階で鶴亭落款を有する作品は国内外あわせて244件(うち、有年紀80件・無年紀164件)を確認し、調査が許された作品は111件(有年紀26件・無年紀85件)であった。実際には、これを大幅に上回る作品が制作されたと想定され、現在も所蔵されていることと思う。実見できていない作品や検討すべき課題も多いゆえ、筆者が報告できる事項は些細なことにすぎないが、今回与えられた研究機会を通して得られた情報を報告し、その責務を果たしたい。2.款記の変遷鶴亭はその生涯でさまざまな号を用いていたことは多様な落款・印章からも確認できる。今回は、有年紀作品における款記の変遷に着目し、款記内容と字体の特徴によって、年紀の早い順から16種類に分類を試みた〔図1〕。以下では、特徴的な事項について指摘しておく。①楷書「鶴亭」②「如是主人(道人・住)」③行書「鶴亭」Ⅰ(「亭」の字の最終画がくるんとまわるかたち)④行書「鶴亭」Ⅱ(「亭」の字の最後の二画が丁の字)― 227 ― 鶴亭の画業に関する研究
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