鹿島美術研究 年報第30号別冊(2013)
25/625

ト》や、独自の様式でオリジナルのエングレーヴィングを制作したジュリオ・ディ・アントニオ・ボナゾーネによる《愛の勝利》〔図2〕と《日の出》、フランチェスコ・サルヴィアティに基づくギージの《エリザベツの訪問》、ミケランジェロに基づくアゴスティーノ・ヴェネツィアーノの《よじ登る人々》〔図3〕などが含まれている(注3)。それらの版画の数点には、余白に鉛筆の書き込みが見られることから、モローがこれらの版画を熟知していたことが分かる。数量的には劣るものの、フランス17世紀の版画にも言及されるべき作品がある。ミケランジェロの素描に基づくフィリップ・トマサンの《ファエトン》〔図5〕、プッサンに基づいてジャン・マリエッティが17世紀に版刻した《バッカナーレ》の19世紀の復刻版画、フランソワ・ペリエによる古代彫刻を表したエングレーヴィングの17世紀のコピー3点、オリジナル版画のエッチングにおいて絶大な人気を博したジャック・カロによる《紅海の横断》、連作《放蕩息子の帰還》、および連作《キリスト受難劇》の一部、17世紀のフランスにおいて肖像画を表した版画の発展に大きく貢献した、レオナール・ゴルティエによる《ピエール・シャロンの肖像》〔図6〕、ガブリエル・ペレルによる風景画のエッチングの作品群、イスラエル・シルヴェストルによる建築および風景画を表したエッチングの作品群を挙げておこう。17世紀北方版画には、16世紀イタリア版画と並ぶモローの強い関心が見られる。現在モロー美術館となっているかつてのモローの住居には、レンブラントによるエッチング《ヤン・ルトマ》と、同じ額縁に入ったレンブラントの自画像のエッチングのコピーが掛けられている。前述のオールドマスターを扱った版画の紙挟みには、17世紀オランダ美術の復興で19世紀に少なからぬ注目を集めたパウルス・ポッテルによるエッチング2点、ヴァン・ダイクに基づくピーテル・クラース・サウトマンの《キリストの捕縛》〔図4〕、ヤン・リーフェンスに基づくヤコブ・ルイスの《ラザロの復活》、ビュランの名手として知られたホルツィウスに基づく17世紀のコピー《ミネルヴァ》、ヴァン・ダイクに基づくとされる17世紀のコピーが含まれている。また、収蔵庫には、ルーベンスに基づくリューカス・フォルスターマンの大規模な複製版画《アマゾンの敗北》が保存されている。18世紀の版画は、建築物を扱った資料的な性質の作品が中心を占める。ピラネージによる建築を描いた多数のエッチングと、ピラネージ周辺で制作したフランス人の版画家による同種のエッチングが大半を占めている。他に、ピッティ宮の古代美術を紹介した『フィレンツェとピッティ宮のギャラリーの絵画、彫刻、浮彫り、カメオ』(1789年)に属する5枚の版画には、主に古代彫刻と浮彫が表され、モローがそのうちのプ― 14 ―

元のページ  ../index.html#25

このブックを見る