4.空間効果段差や明暗差、そしてリブの形状で境界を強調するという、様々な策を講じ、あえて調和的共存を回避させた内陣とは、いかなる存在だったのか。15世紀後半、大聖堂完成の命を受けた棟梁にとって、これより150年前に建設された内陣は、おそらく最大の難問であった。フリードリヒ三世は、皇帝の大聖堂に相応しい、最新の様式を導入した空間を要請したに違いない。だが、外陣が革新的な空間であるほどに、これと接続する内陣の簡素さが際立ってしまう。内陣は、聖職者が祭式を執り行う聖域であり、聖堂において、最も神聖で重要な場所である。したがって中世の聖堂建築では伝統的に、内陣を頂点とするヒエラルキーの構築が課題であった。ゆえに内陣は障壁等で隔てられ、一方で外陣は、内陣という至聖所へ鑑賞者を導く通路の役割に従事した(注21)。換言すれば、均質空間を特徴とするホール式タイプの建築は、方向性を欠くことから、聖堂空間としての根本的な問題を内包していたといえる。シュテファン大聖堂の外陣も、おそらく最初の構想では、内陣に準じたホール式として建設される予定だったと推察されるが、しかしこれほどの巨大な建築全体がホール式空間であった場合、なるほど内陣と外陣の連結は滑らかだが、しかし皇帝の大聖堂には不適格な、凡庸な空間に陥っていたであろう。こうした欠点の克服こそが、段形ホールが導入された最大の動機だったに違いない。段形ホールがもたらした段差によって、内陣は、平信徒の集う外陣から、きっぱりと切り離される(注22)。さらに段形ホールの身廊には高窓がないことから、外陣は薄闇に沈み、これとは対照的に、ホール式内陣が光に満たされ、その明暗のコントラストによって、ともすれば平凡に陥りかねないホール式内陣に、宗教的高揚感が織り込まれるのである。あわせて、身廊が生み出した方向性により、鑑賞者の視線は、まっすぐ力強く、いまや神秘の空間となった内陣へと向けられる。しかも内陣へ向かう運動は、単一な直線ではない。八角形と菱形が交互にリズムを織り成しながら躍動し、段形ホール式がもたらす闇を精妙に彩り、崇高な空間へと昇華させるのである。リブは仄かな光の中で屈折しながら仄かに輝き、空間に精妙な陰翳のグラデーションをもたらす。外陣を、一世紀以上の歳月を隔てる内陣と融和させ、空間効果を相乗的に高めた点にこそ、外陣空間の革新性を認めるべきなのである。こうしてシュテファン大聖堂では、皇帝にふさわしい大聖堂を望んだフリードリヒ三世からの要請の下、ゴシックからルネサンスへの移行期において、異なった傾向を― 266 ―
元のページ ../index.html#277