マーゾ・フィニグエッラによるニエロ版画が挙げられている。とりわけモローはマーゾ・フィニグエッラ作とされていたニエロ版画に関心を持っていた。『赤色のノート』の次頁には「帝国図書館。貴重書室。月曜、火曜」とあり、それに続いて「マーゾ・フィニグエッラのニエロ版画、5553番、65点、1冊、実見した!」と書かれ、作品名が列挙されている。稿者は、今回フランス国立図書館版画室の貴重書室で行った調査によって、モローが実見したこの版画の合本が、同貴重書室に保存されている「大半が作者不詳である15世紀後半のニエロ版画の合本(注12)」と一致することを確認した。内側には、モローのメモと同じように5553番と手書きで書かれている。この版画集は、銅版画の発明者とみなされていたニエロ版画の巨匠マーゾ・フィニグエッラによるオリジナル版画《聖母の戴冠》を含んでいた著名な作品集である。ここに含まれている多くの版画は、19世紀当時にはマーゾ・フィニグエッラによるものとされていたが、現在では作者不詳とされている作品が大半を占めている。モローはこれらのニエロ版画を《聖母の戴冠》の巨匠の手による作品として観察し、《カインとアベルを伴うアダムとエヴァ》、《アブラハムの犠牲》、《ユディト》、《ダヴィデ》、《マギの礼拝》等々の作品名を記している。それらは、この版画集の内容と順序まで正確に一致していることを指摘したい。続いて、モローは「貴重書室で見るべき版画家」と記し、11名を列挙している。マルチェッロ・フィゴリーノ、ジュリオおよびドメニコ・カンパニョーラ、ジョヴァンニ・マリア・ダ・ブレスキア、その兄弟ジョヴァンニ・アントニオ、ニコレット・ダ・モデナ、ジロラモ・モチェット、ベネデット・モンターニャ、エネア・ヴィーコ、ギージ、バティスタ・デ・カヴァリエリである。ジロラモ・モチェットの名前の後に「素晴らしい(excellent)」との感想が書かれていることから、少なくともこれらの版画家による作品の観察に着手していたことは確実である。ドメニコ・カンパニョーラとニコレット・ダ・モデナは、モローがその作品を評価していた版画家に数えられる。1860年代、『ガゼット・デ・ボザール』はこれらの美術家による版画や素描の複製版画をいくつも掲載し、モローはその数点を切り取って、同雑誌から切り取られた版画のために用意した2冊のノートに貼り付けている(注13)。『赤色のノート』に記された版画に関する覚書は、おそらくモローにとって重要な役割を果たしていた。というのも、モローはほぼ同じ内容を『茶色の手帳』(Arch. GM 245)に書き写しているからである。『茶色の手帳』には最初にマーゾ・フィニグエッラの名が挙げられ、モローは続いて「詳しくは私の赤色のノートを参照(voir pour détails mon cahier rouge)」と書いている。すなわち、『赤色のノート』が年代とし― 17 ―
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