鹿島美術研究 年報第30号別冊(2013)
349/625

研 究 者:早稲田大学大学院 文学研究科 博士後期課程  四 宮 美帆子はじめに「佐渡掾藤原正吉」と読める印が捺された絵画作品が存在する。現存作例はすべて鷹を描いたもので、佐渡掾の官職名を持つ、藤原正吉という人物が描いた作品として紹介をされてきた。2010年に藤原正吉の署名や奉納名が記された作品が薬師寺より発見され、今まで推測の域を出なかった正吉の活躍年が判明することとなった。この発見を手がかりに行った藤原正吉画の調査報告を行い、改めて正吉画を美術史の流れに位置づけてみたい。1.新発見紹介まず、新知見を与えてくれた薬師寺所蔵の「鷹図」(以下、薬師寺本と称す)の紹介を行いたい。本作品は2010年に早稲田大学美術史学研究室によって行われた調査の中で発見されたものである(注1)〔図1〜5〕。紙本墨画の掛幅作品で、樹木に乗り上空を見上げる鷹の姿を描いている。画面右側上方には「御綬鷹」の朱文長方印を捺し、「奉寄進鷹八幡宮/御寶前」の奉納銘が記される。画面左側上方には「慶安元年戊子九月吉日」の奉納年、その下に「山本佐渡守藤原正吉筆」の署名、朱文重廓方印「御綬鷹」と朱文方印「佐渡掾藤原正吉」が捺されている。これらの情報から、この作品は山本佐渡守藤原正吉により慶安元年(1648)9月に八幡宮に寄進された作品であることが分かる。この作品の発見により今までは作品に捺された印章からの情報しか得られなかった藤原正吉の名字と活躍年が判明することとなった。ここに記される八幡宮の詳細は不明だが、現在の所蔵者である薬師寺の鎮守である休ケ岡八幡宮である可能性が考えられる。また、官職名については印章が「佐渡掾」であり、署名が「佐渡守」としている点が問題となる。この点については追って考えたい。2.藤原正吉の鷹図概観次に薬師寺本以外の現存作例について概観したい。異なる絵師に比定されているが、画風から正吉画と判断したものも含め、現在確認がとれたものが14点存在する〔表1〕。まず画風から確認する。現存作例はすべて一画面に一羽の鷹を描いたもので、薬師寺本のように樹木等に乗る屋外の鷹の姿を描いたものと(仮に山水鷹図と称す)、― 338 ― 藤原正吉の鷹図

元のページ  ../index.html#349

このブックを見る