鹿島美術研究 年報第30号別冊(2013)
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止まり木である鷹架に繋がれた姿を描く架鷹図に大別できる〔図6〕。形式は掛幅形式と、押絵貼屏風形式の二種がある。山水鷹図の作品は、いずれも樹木や岩の上に乗る鷹の姿を描いている。鷹の乗る樹木は、マツを始め、クヌギ、イチイ、ツバキなどと思われる葉や花を描くが、鷹が乗る太い枝や幹は樹木ごとの描き分けはされていない。画体でいえば行体を用い、墨の滲みやかすれを利用して、先が割れ樹洞や瘤が生じた枯木の風情を描き出している。彩色を施す場合は鷹のみに施し、樹木や土坡には彩色を用いていない。架鷹図の作例では、ほとんどの作例に彩色を用いている。ただし彩色を施す場合は部分的で、鷹には成鳥の瞳・胸部から腹部・翼の内側・脚の部分に用いている。止まり木である架には、そこにかかる架垂と鷹を繋ぐ大緒に用いている。鷹図の図像は舶載された中国絵画などを利用し、鷹図を多く手がけた曽我直庵が活躍した安土桃山時代には定型が完成していたと考えられる。正吉も何らかの粉本を手に入れ、それをもとに鷹図を描いたと考えられるが、粉本を用いながらも正吉らしさを見せる点が存在する。曽我直庵らの作品と比較し正吉画の特徴五点を指摘したい。一番目に鷹の体躯の描き方が挙げられる。正吉画の鷹は横から見た表現が特徴的であり、福井県立美術館蔵「鷹図屏風」(以下、福井県美本と称す)〔図7〕や根津美術館蔵「鷹図」(注2)に顕著なように首が短く頭部と胴体の境目が明確ではない。そして腹部が膨らみラグビーボールのような形をしている。比較対象として曽我直庵筆「架鷹図屏風」(奈良県立美術館蔵)を挙げておく〔図8〕。二番目に鷹のポーズが挙げられる。頭を垂直に上げ天を仰ぐポーズの作例が数点存在し、薬師寺本や、岐阜市歴史博物館蔵「鷹図」(注3)や、ベルリン国立アジア美術館蔵「架鷹図」(注4)などに見られる。他の絵師による近い描写のものは□信印を捺す「松鷹図」(注5)や、曽我二直菴「鷹図」(個人蔵)(注6)などが存在するが、この二作品以外にはほとんど存在しない。正吉画はこのポーズの作例が四点存在し、斜め上方を向いているポーズを含めれば八点に及ぶ。鈴木廣之氏が指摘するように架鷹図の作例の多くが「鷹の姿が、架上の姿としてはやや不自然な、むしろ下方にいる獲物を狙うような姿勢」のものが多い(注7)。他の絵師の作例が少ない点を考えると、四点とはいえ正吉はこのポーズの鷹を意図的に描いていたと考えられる。三番目に鷹を正面から捉えたポーズが挙げられる。首を垂れ腹の中央あたりでかしげるポーズで、これは『日本屏風絵集成⑿』図56の「架鷹図屏風」や、福井県美本〔図9〕などに見られる。比較的近いポーズは、伝曽我直庵筆「架鷹図屏風」(仁和寺蔵)〔図10〕や、伝曽我二直菴筆「架鷹図屏風」(ボストン美術館蔵)に描かれるが(注― 339 ―

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