在修復中の教会堂もあることから、今後も引き続き作品調査を続けたいと考えている。今回の調査で私が確認できたのは、ル・ヴェジネの聖マルグリット教会(1901〜03年)、ル・プリウレの礼拝堂(1915〜30年)、ル・ランシーのノートルダム教会(1923年)、ヴァンサンヌの聖ルイ教会(1923〜27年)、パリ、サン=テスプリ教会(1934年)である。その他、ジュネーヴの聖パウロ教会、トノン=レ=バンの二つの聖堂については、カラー図版を確認した。ドニの数多い聖堂装飾を語るには十分ではないかもしれないが、ドニが自身の論文で言及している作品であり、またアトリエ・ダールサクレ以前、アトリエが活発だった20〜30年代、そして最晩年という各時代を俯瞰することができた。●ル・ヴェジネ:コレージュ・サン=クロワ礼拝堂と聖マルグリット教会聖マルグリット教会は1862年に建設された教会で、コンクリートという新技術が用いられた。1901年、ドニはまず聖歌隊席左の聖母礼拝堂の装飾に取り掛かり、翌々年反対側のサクレ=クール礼拝堂と側廊の装飾〔図2〕を行った。ドニ自身がヴォルトから壁面、ステンドグラスに至るすべての内部装飾を手がけたことで統一感のある作品に仕上がっている。落ち着いた色調で、フレスコ画の様なマットな質感の絵画が内部を華やかに彩っている。とくに青一色の優美で繊細な線描は、のちのル・プリウレの礼拝堂を予期させる優れた作品である。ここでも、ドニはエッサイの木の下に集まる信徒たちのなかに、町の様々な人々、大工の姿をした労働者や職人、町の名士などを描き込むことで、教会が地域と時代に果たす役割を明らかにしている。ル・ヴェジネの二作品は、優美でたおやかな形態と柔らかい色彩、森の中の神秘というドニの初期作品に見られる特徴が映し出されており、さらにイタリア旅行を通じたフラ・アン1890年、ドニは初めての宗教装飾となるコレージュ・サン=クロワ礼拝堂のための祭壇壁画の制作を依頼された(注2)。1898年に制作が始まり翌年に完成。1911年に礼拝堂が閉鎖される際、パネルが壁面から取り外され、現在はオルセー美術館の所蔵となっている〔図1〕。上下5枚のカンヴァスパネルに《十字架の栄光》が油彩で描かれた。美しい森の中で展開されるミサと祭儀を執り行う司祭と聖歌隊たちの赤い礼服が崇高な雰囲気を生み出している。ここにはすでに、聖なる光景にドニの妻マルトや親しい人間たち、つまり日常の光景が侵入している。批判的な意見もあったものの、概ね好評を得たことで、ドニは同司教区の聖マルグリット教会から大きな注文を受けることになる。― 372 ―
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