19世紀後半から存在したが、1912年に新たに建設され今に至っている。第一次大戦の影響で作業が中断し1919年に再開、1924年に完成した(注7)。内部は大きな4つのアーチによって中央のドームが形成される独特の構造を持ち、現代的で経済的なコンクリートが積極的に用いられた。内部装飾は1921年から計画が進み、ドニのほか2名の画家による壁画、その他磁器作家などの協力により完成した。参加した画家が3名と限られていたこと、当初から調和のとれた装飾が意図されていたことで、壁画はシンプルでありながら気品のある美しさで満たされている。建築と装飾が同時に進行していたことにより、内部空間の統一感は群を抜いている。●30年代以降パリ:サン=テスプリ教会1928年に献堂されたパリのサン=テスプリ教会は、中央に大きなドームを備えたビザンティン風の建築である。内部は40人の画家の手による1〜20世紀までのカトリック教会の歴史を描いたフレスコ画で囲まれているが、それとは別にドニとデュヴァリエールの油彩画が設置されている。ドニの《聖霊降臨》〔図7〕はアプスを飾るため壁画として、他の壁面に先駆けて制作された(注8)。ドニが手掛けたのはアプスの壁画《聖ルイの栄光》〔図6〕とドームを支える壁面に描かれた《山上の教え》である。時間的な制約のあるフレスコそのものではなく、テンペラを加えたStic Bと呼ばれる技法が用いられたが、フレスコに擬したマットな質感が見事に再現されている。《聖ルイの栄光》では、町の守護神である聖ルイを中心に横長の壁面の左には教会の献堂者たちの行列が、右にはカトリックの聖人たちが描かれている。淡いピンクで描かれた木立、緑の森に伸びる木の影、ヴァンサンヌの森の中で展開する聖人たちの姿は、従来のドニの絵画世界を想起させる好例である。寒色と暖色が溶け合う抑えた色調、優美な人物像、外界につながる神秘的な森の情景は、コンクリートで覆われた薄暗い教会堂のなかにあって、詩的な感情を湧き上がらせるのに十分な美しさに満ちている。画面上部には聖母マリアと使徒たち、彼らに降りそそぐ聖霊が、中段には聖パウロと東西教会の教皇が、そして下段には1930年当時の教会が描かれている。しかし先行作例と異なり、ここでは陰影を強調した、より写実的な表現がとられている。上段の聖母たちは繊細に、かつ光り輝くように神秘的に描かれ、中段の教会の偉人たちは降り注ぐ聖霊からこぼれる光を背に受け、荘厳に描かれている。一方下段に描かれた現代の人々は、正確な明暗表現で表されており、それぞれの聖性が色彩によって描き分― 375 ―
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